運命の女

UNFAITHFUL
監督 エイドリアン・ライン
出演 ダイアン・レイン  リチャード・ギア  オリビエ・マルティネス  エリック・ペア・サリバン  チャド・ロウ  ケイト・バートン  マーガレット・コリン  ドミニク・チアニーズ
原作 クロード・シャブロル
脚本 アルビン・サージェント  ウィリアム・ブロイルズJr
撮影 ピーター・ビジウ
音楽 ジャン・A・P・カズマレック
2002年 アメリカ作品 124分
ニューヨーク映画批評家協会賞…主演女優賞受賞
全米映画批評家協会賞…主演女優賞受賞
評価☆☆☆★

この映画を観た後、クロード・シャブロル監督の“LA FEMME INFIDELE (英題は“UNFAITHFUL WIFE”)”(1968年)がオリジナルだと知って、そちらも観たくなった。
日本未公開らしいが、なんといってもクロード・シャブロルが監督というのが、そそる。
シャブロル監督は、ジャン=リュック・ゴダールやフランソワ・トリュフォーらとともに、ヌーべル・バーグの重要人物だ。「美しきセルジュ」「いとこ同志」や、近年の作品では「沈黙の女/ロウフィールド館の惨劇」を私は観ている。
“LA FEMME INFIDELE”のキャストは、ステファーヌ・オードラン、ミシェル・ブーケ、モーリス・ロネという魅力的な顔ぶれなのだ。

こちら、「運命の女」。原題は「誠実でない」ということ。つまり不貞だ。
ダイアン・レインが魅力的。最初に出てきたときから、あ、いい女だなあと思った。30代半ばで、きれいで程よく色っぽい。性格も悪くなさそう。そういうふうに見える。一目惚れ。
「パーフェクト ストーム」(2000年)で久々に彼女をスクリーンで見たときは、ほとんど印象に残らず、がっかりしたものだった。もっとも、映画がワーストでラジー賞ものだったから、なおさらそう思えたのかもしれない。

この映画の彼女は、いい。エロティックなシーンを見せてくれるのも、もちろんオトコの目を楽しませてくれて、正直言って、ものすごく嬉しい。
なにしろ、私は彼女が14歳のときの「リトル・ロマンス」(1979年)を観て、可愛いなー、彼女にしたいなー、と思っていたのだ。
そして、「ストリート・オブ・ファイヤー」(1984年)の歌姫は永遠だ。(吹替えだけど…。)
そんな思いのたけ(?)が、長い時を経て、
こんなに立派に、いいオンナになって…という感慨に昇華された喜びは、まさに夢のごとしである。(おおげさだ。)

エロいシーンは、夫役のリチャード・ギアとも少しあるが、特に、不倫相手オリビエ・マルティネスと演じるベッド以外の場所での愛欲シーンは、かなり刺激的。
また、情事が終わって
帰りの電車の中で余韻に浸る表情といったら、もう悶絶、絶品
親切そうで、かっこよさげなフランス男。日常から離れた、素敵な夢の世界の住人のような異国人。こんな男に誘われたら、きっと女なら、かなり、やばい。

しかし、ただエロっぽいだけではないのが、ダイアン・レインのお見事なところだ。
夫は会社社長。もうすぐ9歳になる男の子がひとり。夫は優しい。愛情にも満ち足りて何の不自由もないはずの暮らし。
そんな妻が不倫に落ちるのだ。普通なら、おまえが悪いんやないか、と責められるだろう。男の立場からしてみれば、なんでや!? なんで浮気なんかせなあかんねん!? ってなもんだ。
もちろん、やってることは、よくないことだ。だけど。この映画のダイアン・レインだったら、しかたないと思えてしまうのだ。
同感できる。感情移入できるのだ。

性格がいい女なのだ、悪い女じゃないのだ、
ほんの少し、よろめいてしまっただけなのだ、と観ているほうが思ってしまうのだ。
新しい男に惹かれながらも、その気持ちをなんとかして止めなくちゃいけないことを頭の一方でいつも考え、葛藤に悩む女の姿が、きちんと見えているから、観客は彼女を簡単に責めることはできない。
何の不満もない夫婦生活を送っていても、不倫という罠には、誰でも、ちょっとした間違いで陥ってしまう可能性がある。そのことをよく観客に分からせている。

どうすればいいのか。ちょっとした間違いに簡単に落ちる前に、
できれば、自制することだ。それしかないでしょう。自制するか踏み出すか、どっちかなのだから。
後ろめたい気持ちに耐えられるのか、泥沼に陥ってもいい覚悟が本当にあるのか。まず、将来起こるだろうことを冷静に考えてみるべきなのだ。(冷静に考えられないほど情熱が強いのが問題なのだろうけれど。)

これは、夫婦関係のテストケースだ。浮気をされたほうも例外ではない。浮気をされたほうは、何もできない哀れな被害者のように見えるが、それでも、いくつかの選択肢がある。(この映画でのリチャード・ギアは、思ってもみない運命に落ちてしまうわけだが。こちらは、まるで「運命の男」だ。リチャード・ギアの平平凡凡な夫役というのも見ていて面白い。)
観客が、自分だったらどうなのかを、自分自身で考えて、
自らに反映させてみるべき作品だろう。

とにかく、この映画は、ダイアン・レインの存在が支えているところが大きい。
彼女の、情感ある、しなやかな演技(と艶技)は、下品ないやらしさを際立たせることがなく、
ありがちな不倫ものとは違う品格を、作品に与えた。
同じエイドリアン・ライン監督の「ナインハーフ」(1985年)の底の浅さと比べたら、雲泥の差がある。
なにはなくとも、ダイアン・レインの「女」を観るべし。

あやふやさを出したラストシーンも、観客に考えさせて余韻がある。
〔2003年1月11日(土) ワーナー・マイカル・シネマズ 大井〕



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