ファム・ファタール

FEMME FATALE
脚本・監督 ブライアン・デ・パルマ
出演 レベッカ・ローミン=ステイモス  アントニオ・バンデラス  リエ・ラスムッセン  エリック・エブアニー  エデュアルド・モントート  ピーター・コヨーテ  ティエリー・クレモン  グレッグ・ヘンリー
撮影 ティエリー・アルボガスト
音楽 坂本龍一
編集 ビル・パンコウ
2002年 フランス・アメリカ作品 115分
評価☆☆☆★

監督ブライアン・デ・パルマと、主演女優レベッカ・ローミン=ステイモスが、すべて。

デ・パルマ監督の持ち味というか、趣味が炸裂してます。自分で脚本を書いてるのだから、自分のやりたいように映画を作るよ、そりゃ。
このケレン味(「けれん」とは、ごまかし、はったり、と辞書にはある)いっぱいの物語を嬉々として作り上げる監督に、こんなにクラクラと男を惑わすような美女のファム・ファタール(男を破滅させるような魔性の女)が手を貸したならば、その時点でもう、これはデ・パルマ世界へ一直線に、いっちゃいますって!
あなた、この映画、話の都合が良すぎるなんて、野暮なこと、言いっこなし!

お話は、まずはカンヌ映画祭が舞台に。マジですよ。ほんとのイベント撮ってます。
「イースト/ウエスト 遥かなる祖国」の上映シーンがあるし、その主演女優のサンドリーヌ・ボネールや監督のレジス・ヴァルニエまで登場してるんだから。
そこでショパール製作の、385カラットのダイヤ(映画で見たけど、見た目に凄いのかどうか、よく分からん)から出来た蛇の形のビスチェを、かっぱらう計画が実行される。

もちろん、わがヒロインのレベッカちゃん扮するロールはファム・ファタールだけあって、かっぱらう側の一味なのだ。
この強奪方法が、また、お馬鹿というか、そんなふうに行くかい!と突っ込み放題な計画なわけだ。
だが、かえって、そういうほうが成功しちゃったりなんかして…って、そうは簡単にはいかない。

カンヌ映画祭を舞台にした華麗な?強奪計画のバックに流れる音楽が、ボレロみたいな曲。
音楽は、われらが坂本龍一教授で、この場面の曲には「ボレリッシュ」というタイトルがついている。訳すと「ボレロみたいなの」。そのまんま確信犯でいいじゃないか。この音楽は、もとネタがお馴染みなだけに、耳に残ったね。
(追記2004年4月8日:監督によれば、坂本教授は最初は「ミッション:インポッシブル」風の音楽を作ったという。だが、映画のその場面で重要なのは盗みではなく、「誘惑すること」だと考えて、監督自ら、坂本教授に「ボレロ」をアレンジするように頼んだ、という話である。)

なんだかんだあって、けっきょくダイヤはロールちゃんが、お持ち帰りですか? ということになる。そして、またまた偶然が重なって、彼女はアメリカへ逃げることができそうな雰囲気に。
ところが、現実は甘くない。ネタばれするので途中をはしょるが、ロールちゃん、ついに絶体絶命の危機に陥るのである。
ここからが、彼女のファム・ファタールな本性剥き出しの独壇場。
もはや、アントニオ・バンデラスも、ただの飾り。女に、いいようにもてあそばれまくるパパラッチ・カメラマン程度のものでしかない。

ロールちゃんの悪だくみが、あと一歩で成功するかに見えた、そのとき。
やはり、勧善懲悪におさまるのか! 思わぬジャマが!
と思ったら、はて? まさか?
うわっ、そんなのありですか。…ありです。

いいことをしておくと、いいことが返ってくるんですねえ。因果応報といいます、これを。

けっこう、いいじゃないの、この結末。
彼女ったら、思いのほか、○○じゃなかったりしてさ。やっぱり好きになっちゃうよ。
彼女の背が180センチあってもいいや。17センチの差なんて気にしない。飛びあがって抱きついちゃう。(普通は逆か…)
もはや、私までもがファム・ファタールに魅入られているようですな。破滅しないように気をつけねば。

デ・パルマ監督らしさは、伏線トリックいっぱいなストーリーだけでなく、映像上の技巧にも発揮されている。
画面の2分割や、おもしろい位置からのカメラワークなどは、まさにデ・パルマ印の画面というべきだろう。ただ、カメラのノーカット長廻しや、人物がぐるぐる回転するごとき撮影はなかったので、「めくるめく」度合いが小さくて、少し、おとなしい印象も持った。

ふと思ったのは、水野晴郎氏の「シベリア超特急」シリーズ。
冒頭でカメラの長廻しをやったり、階段落ちをやったりしたのは、デ・パルマ監督が元ネタからそのシーンを真似したのと同じようだし、自分がやりたいことをやって映画を作ってるのは、どちらも同じではないか。
しかも、今回「ファム・ファタール」では、走っている車の中での会話のシーンで、画面が動かないところがあったのだ。水野氏の「シベ超」でも、汽車が走ってるのに揺れていないぞ、という指摘があった。まさに、巨匠同士、あい通じているではないか! 水野氏は日本のブライアン・デ・パルマだったのだ。

「ファム・ファタール」に戻るが、冒頭のシーン。
古い映画が映る。そこに寝そべった女性の顔が映り込む。女がテレビを観ているのだと分かる。いいねえ。
しかも、その映画は、フィルム・ノワールの、ファム・ファタールものの名作映画なのだ。いいねえ。
なんとも、しびれる出だしなのである。
私は、ここだけで、もう星3つ分は、つけちゃいたいくらいですね。

ブライアン・デ・パルマ監督。
けっこう観てます。「ファントム・オブ・パラダイス」「キャリー」「愛のメモリー」「フューリー」「殺しのドレス」「ミッドナイトクロス」「スカーフェイス」「ボディ・ダブル」「アンタッチャブル」「レイジング・ケイン」「カリートの道」「ミッション:インポッシブル」「スネーク・アイズ」「ミッション・トゥ・マーズ」。
並べりゃいいってもんでもないが。特に、「キャリー」などの初期の、ケレン味いっぱいの、おもしろ恐く悲しい世界は独特なもので、それこそデ・パルマの映画、としか表現できないものだった。

実際、この映画、デ・パルマ監督が好きでない人ならば、ちょっとストーリーに難あり、と言うんじゃないでしょうか。でもねえ、都合のいいストーリーなんて、過去の映画には、山ほどあるんだって。偶然、出会うとか、偶然、そっくりさんがいるとか。そんなの普通でしょ。
だったら、デ・パルマ監督の世界を、思いっきり楽しみましょう。
デ・パルマ印が好きでなかったら、観ても、はずすかもしれませんけど。

主演のレベッカ・ローミン=ステイモス。
彼女は、オランダ系のアメリカ人。モデル出身だ。「X-MEN2」の感想のときにも書いたが、ピープル誌で97年、99年に、世界最高の美女50人に選ばれている美人なのだ。
私は「X-メン」「X-MEN2」の変身ミュータント、ミスティーク役で彼女に注目して、次回作を調べたところ、この「ファム・ファタール」だったのだ。もっとも「ファム・ファタール」のほうが「X-MEN2」より撮影は先だったらしいが。
ミスティークは、全身メイクで素顔もよく分からないが、「X-MEN2」では、ほんの少し素顔が見られるシーンがあった。これがまた最高に色っぽかったのである。
私に注目すんなってほうが無理でしょうが。
彼女、名前が長いが、それはジョン・ステイモスという俳優と結婚して、彼の名字をくっつけたから。
ちなみに、夫のジョン、この映画に声だけ出演している。アントニオ・バンデラスと電話でしゃべるエージェントだ。撮影見学に来たときに、映画にちょっと出てみない?と言われて、関わったという、ありがちなパターンではある。

最初にも書いたが、この映画は、デ・パルマとレベッカに尽きる。
だから、この2人が好きかどうかが、この映画が好きかどうかの分かれ道なのだ。

最後に、デ・パルマ監督が、この映画についてのインタビューで語ったなかで、マリリン(もちろん、モンローさんですよ)を例に出しているところがある。少々長いが、おまけとして、それを紹介しておこう。マリリン・ファンとしては、ほっとけないでしょう?
「…私たち(映画監督)はロマンチックな幻想を作り出すんだよ。美しくミステリアスな女性もスクリーンのなかだけに存在する。それが映画スターというものの本性だ。マリリン・モンローはセルロイドで出来た創造物なんだよ。だから映画は観客の目に焼きつくんだ。それこそが映画とは何かという素晴らしい答えだと、私は思うね」(映画サイトeiga.comより)
映画は作り物っていうこと。
うーむ、それはいいのだが、分かるような気がするが、マリリンは違うと思うなー、私は。もっと生なましい自分自身がスクリーンにもにじみ出ている感じがするけどなあ。特に後期の映画には。マリリンは、見せかけの画面上だけのスターという存在とは、根本的に何か違うと思うぞ、とりあえず。
〔2003年8月23日(土) ワーナー・マイカル・シネマズ 大井〕



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