HERO

HERO 英雄
監督 チャン・イーモウ
出演 ジェット・リー  トニー・レオン  マギー・チャン  チャン・ツィイー  ドニー・イェン  チェン・ダオミン
撮影 クリストファー・ドイル
脚本 チャン・イーモウ  リー・フェン  ワン・ビン
音楽 タン・ドゥン
ヴァイオリン独奏 イツァーク・パールマン
衣装 ワダ・エミ
アクション監督 トニー・チン・シウトン
2002年 香港・中国作品 99分
ベルリン映画祭…アルフレッド・バウアー賞受賞
評価☆☆☆★

チャン・イーモウ監督の武侠映画
秦王を暗殺しようとする刺客たちを倒した男が語る物語。
武侠とは、強くて義理に厚く、信じるもののためには死をもいとわない剣客が活躍するヒーローもの、というふうに、私は理解している。
本作には、まさに、その通りの人々が登場していた。

とにかく映像が圧倒的に美しい。

ヒーローたちは、愛する者や、より大きな意義あるもののために、命を捨てる。
その死にざまの、いさぎよさには、生命第一主義(?)の生活を送っている私などには、ある種、驚きをもって考えさせられるものがある。
日本でも、武士道などは、これに近い感覚があったのだろうが。
すごい、と思う反面、自分には、こんなことはできない、と、少し離れた場所から眺める。映画のなかの出来事だと確認しながら。
とくに、矢の降ってくるなかで、逃げずに、ただ机に向かう、なんてことは、私には(現代の人間には、といってもいいのかな)、決して、できることではないではないか。

私は香港や中国の映画を、ほとんど観たことがない。
チャン・ツィイーを「グリーン・デスティニー」「初恋のきた道」で、チャン・イーモウを「初恋のきた道」「あの子を探して」で知っているくらいだ。
(ちなみに、上の3作は、みな素晴らしい映画だと思う。)
ジェット・リーは「リーサル・ウェポン4」「キス・オブ・ザ・ドラゴン」で観ているが、この2本はアメリカ映画だ。
ワイヤーで吊るアクションも「グリーン・デスティニ−」で観て、そのときに、とても目新しく感じたものだが、その後、ワイヤーといえば、「マトリックス」などのアメリカ映画で観るばかりだ。
それほどに、この手の映画に詳しくはないので、純粋に思ったままを述べようと思う。

「グリーン・デスティニ−」を観たときにも感じたが、ワイヤーを使ったアクションは好きだ。水の上を走るように、飛ぶように動いたりするのも、面白いと思う。
いかにも吊るされている、という非常識な(?)動きには笑っちゃう、という人も多いらしいが、私は、ひとつの「儀式」というのか、「型」「様式美」と観れば、とても美しい芸術のように思える。「グリーン・デスティニ−」の感想のところでも書いたが、ファンタスティック!なのである。

水滴がスローモーションで落ちる。
水の壁を切りさいて走る。
水面を跳び走る。
水面に剣を突いて跳びはねる。
お互いの思索のなかで戦いを繰り広げる。
そのイメージ。
イメージの美しさは、精神的な美しさ、ひいては、東洋的な美しさなのかもしれない。

秦軍の戦闘は数で圧倒する。物量的なパワー。
兵士の数も、矢の数も。
数え切れないほど無数の矢が襲来する場面は、視覚的にも凄いものがある。
矢が人間の間近に突き刺さる迫力は、黒澤明監督の「蜘蛛巣城」を思い出させた。

そして、何よりも、色彩だ。
物語のパートごとに、ベースになる色が決まっていて、鮮やかだ。
この構成も、様式美だ。
衣装のワダ・エミさんのアイデアによるものだと、どこかで聞いた。
特に素晴らしいと思ったのは、黄葉の舞うなかで、赤い衣装をまとったマギー・チャンとチャン・ツィイーが戦う場面だ。
その色のコントラストの美しさは絶品で、2人の戦いの舞いが生み出す、あでやかさに息を飲む。
そして、最後には、敗れたほうの視点が、黄色から、血の色に赤く染まっていく…。
ぞくりとした。
まったくもって、動く絵画である。
この一片だけを切り取っても、芸術作品のようである。
この映画は、その芸術のようなもの、の集合なのだ。

物語は、「羅生門」(やはり黒澤監督だ)的に、二転三転していく。そこでほんの少しだが、だれる感じがした。
細部は違うけれども基本的に似ている話が次第に重複してくるので、やはり、そこが観ていて疲れを感じる可能性があるのではないだろうか。(その、似ていながらも少し違った物語になっていくところが面白い、と感じる人もいるに決まっているのは、言うまでもない。)

信じるもののために生きる中国の理想の英雄たちの、行動を、精神を、美しい映像とともに、撮りあげた映画である。

アメリカ映画を観ることが多い私に、こうした歴史的、思想的に異質とも言えて、かの広大な大陸をも、ほのかに感じさせ、「色彩」と「型」の様式美で圧倒するような映画は、新鮮な経験なのだった。

ただ、私個人の気持ちでは、「グリーン・デスティニー」と比べてみたときには、戦いの面白さ、チャン・ツィイーの痛快な暴れっぷり、など、ストレートに押してきた「グリーン〜」のほうが好みだ。監督の作風も違うのだろうし、並べて比べるものではないけれども、一応ね。

〔2003年8月24日(日) ワーナー・マイカル・シネマズ 大井〕



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