キル・ビル Vol.1

KILL BILL Vol.1
脚本・監督 クエンティン・タランティーノ
出演 ユマ・サーマン  ルーシー・リュー  栗山千明  ソニー千葉  大葉健二  ジュリー・ドレフュス  ヴィヴィカ・A・フォックス  ダリル・ハンナ  マイケル・マドセン  デビッド・キャラダイン  ゴードン・リュー
撮影 ロバート・リチャードソン
編集 サリー・メンケ
音楽 RZA
美術 種田陽平  デビッド・ワスコ
アニメーション プロダクション I.G
製作 ローレンス・ベンダー  クエンティン・タランティーノ
2003年 アメリカ作品 113分
評価☆☆☆☆

ハジケてる。突き抜けてる。
好きな映画への愛が溢れている。
任侠映画やカンフー映画、マカロニ・ウエスタンなどの娯楽アクション映画ファンのタランティーノ監督が、自分の好きな、過去のそうした映画の、いろんな要素を取り入れて、やりたい放題、自分の好みに作ってしまった、「自分の映画」
もう痛快痛快。面白いったら、タラちゃん!

いくら日本の任侠映画や怪獣映画、「バトル・ロワイアル」のような殺戮生き残りゲーム的バイオレンス映画が好きだからって、日本に住んでなきゃ日本の正しい知識が足りないとしても当たり前。知っててわざと、オモシロ変な日本を描いているとしても、大いに結構。
中央に広場があって池があって、バンドがロックを演奏してるような、こんな面白い料理屋ございません、と言ってみたって、そのうち、でキルかも、こんな料理屋のあるビルでぃんぐ!?
飛行機に刀を持ち込んではいけません、と言ってみたって、この映画は「細かいことはどうでもよし、オレ(=タラちゃん)がおもしろければOK!」の世界にしてあるのです。

ウソっぱちでも構やしません。想像のアナザーワールドです。
実際の世界とは並列にあって交わらないはずの世界、つまり、パラレルワールドで想像を膨らますのが好きな悪ガキのタラちゃんやりたい放題、やったもん勝ちです。

お話を紹介すると――ビルが率いる毒ヘビ暗殺団の一員だったザ・ブライドが、自分の結婚式の途中で他のメンバー4人に襲われる。花婿を含む、式の出席者などは殺され、ザ・ブライドのお腹にいた赤ちゃんも死ぬ。しかしザ・ブライドだけが一命を取りとめ、数年の昏睡状態から目覚める。彼女は、4人の襲撃者、そしてその背後にいるビルを殺す復讐の旅に出る。

深作欣二監督に捧げるというテロップ(これは日本版のみに入っているという話だが、もしそうなら、なぜ他の公開版には入れないのかが不満である。タラちゃんは、深作監督と千葉真一さんと3人で映画を作りたいね、と何度か話をしていたのだというが、それは深作監督が亡くなって、夢となった)、そして、60年代、香港でカンフー映画をヒットさせたショウ・ブラザーズのマークで映画は始まる。さっそく遊んでるタラちゃん。

ザ・ブライドには、タラちゃんの「パルプ・フィクション」(1994年)にも出演していたユマ・サーマン。なんと「キル・ビル」のアイデアは、「パルプ・フィクション」を作っていた当時から生まれていたそうだ。最初、ビルのイメージはウォーレン・ビーティだったとか。実際にはデビッド・キャラダインになったのだが、彼は「燃えよ!カンフー」というテレビシリーズでも有名だったから、カンフー映画好きなタラちゃんの映画にはピッタリではないか。

ザ・ブライドは、まずソニー千葉(千葉真一)扮する服部半蔵を訪ねて、沖縄へ(映画自体は、時間の流れを引っ繰り返して、2番目の敵を倒すところから始まるのだが)。
タラちゃんは、千葉真一が服部半蔵を演じた「影の軍団」が大好きなのだった。
なぜか沖縄で(江戸=東京から遠いから、隠れ住むにはいいのかな?と、いちおう理由を考えてみた)、寿司屋を営業して世をしのぶ半蔵は、じつは立派な刀鍛冶だったのだ!

寿司屋のふりをしている場面での千葉ちゃんは、ユマ・ザ・ブライドを前にして、わざとらしい軽妙な喋りを繰り広げる。従業員(じつは半蔵の配下というわけだ。演じるのは「影の軍団」にも出演していた大葉健二さん)が出てくると、なおさら漫才だ。いいねえ、こんな、やりたい放題お遊び。

千葉ちゃんから作ってもらった刀を持って、ルーシー・リュー演じるオーレン石井(この名前も、「影の軍団」の登場人物「お蓮」と、タラちゃんの好きな日本の監督「石井」から作ったという。あんたも好きねえ)がいる東京へ向かうザ・ブライド。飛んでる飛行機や、空から見た東京のシーンは、わざわざ、ゴジラ映画のミニチュアを使用したというから、お遊び好きにも程がある! 笑ってしまうほど嬉しいぞ!

東京のヤクザ世界を牛耳るオーレンの、子どもの頃の話がアニメで紹介される。このアニメを製作したのが、パトレイバーやら攻殻機動隊を作った有名なアニメスタジオ。今の日本のアニメはよく知らないが、ここで描かれる絵は、かなり粗削りともいえそうな画風で、そこがまた暴力的なストーリーに合っていて、テンポよくキレよく、とてもいい出来だと思った。血みどろのバイオレンスだから、アニメのほうが描きやすく迫力が出るのかもしれない。

さあ、オーレン一行がいる料理屋に乗り込んだザ・ブライド。ここで、深作欣二監督の「バトル・ロワイアル」で印象的だったとして、タラちゃんご指名で「キル・ビル」出演が決まった栗山千明との対決がある。
千明ちゃん演じるは、オーレンのそばにいつも控える用心棒のような存在、ゴーゴー夕張。ふざけんなー!という名前だが、本名ではないだろうから(当たり前だ)、いいのだ。これは日本のアニメの「マッハGOGOGO」(懐かしいなあ)と、夕張映画祭からとったという。(夕張メロンじゃないのか。)

千明ちゃん、高校の制服である。うーむ、いいかもしんない。衣装は制服と聞いて、セーラー服にしようとした日本人スタッフに対して「そうじゃなくて…」と言ったタラちゃん、あんたはよく知ってる! 東京あたりの女子高生は、たぶん、ブレザーが多くて、セーラー服はあまり見かけないのだ。
ま、それはさておき、チェーンの先に鉄球がついている武器でユマと戦う千明ちゃん。じつにワイルドでイカシてる。目の力が強いよ。怖いよ。出番は少ないが、鮮烈な印象を残した。

ここから、ブルース・リーが出ていたテレビシリーズ「グリーン・ホーネット」のようなマスクをつけた敵がうじゃうじゃ登場。ザ・ブライドも、ブルース・リーが「死亡遊戯」で着ていたトラックスーツ(トラックっていうのは陸上などの、走る系の競技ですよね? つまり、そういう競技で着るようなジャージウェアっていうことか)と同じような格好なのだから、まったく呆れるほどに、自分の好きな映画への愛着が、ひしひしと感じられる真似っこ、いや、リスペクト(尊敬)ぶり。

「クレイジー88」(この名前も元ネタがありそうだが)という名称のオーレンの配下たち、これは、きっと88人なのだろうが、こいつらをバッタバッタと斬りまくる場面のユマは文句なく、かっこいい。血が飛び、腕が飛び、首が飛ぶが、凄惨なイメージはない。この場面で血が赤いのは日本版だけらしい。他の公開版は、残酷シーンということで、血の色を黒くしてあるようだ。
敵のなかに子どものように若い男を見つけたザ・ブライドが、子どもを叱るようにして、男にうちへ帰れと言う。男が泣きながら階段を駆け降りてくるところには大笑いだった。

クライマックスは、オーレンとザ・ブライドの、雪の庭園での一騎討ち。
「イクヨ(行くよ)」と、たどたどしい日本語で言うザ・ブライドに対して、私は心の中で「クルヨ」と思わず答えてしまい、ひとりで受けていたのだった。そうとも知らない(知るわけないだろ!)オーレンは「キナ(来な)」と答える。
英語もできるオーレンなのだから、ザ・ブライドはわざわざ下手な日本語を使わなくたっていいのだが、ここは日本刀を持った対決の場面。日本映画へのリスペクト(+お遊び)であろう。

ユマとルーシーの下手な日本語がイヤだ、という批評をよく見るが、そんなこと、どうでもいいじゃないか。たかが映画だ。しかも、喋るのは外国人なのだ。下手でおかしくない。それなら、英語が下手な日本人も同様に批判するわけだろうか。
私は、彼女たちが、たどたどしい日本語を喋るシーンは好きだ。おかしくって、愛嬌があって、面白い。いいじゃないか。
この映画にシリアスを求めるのは、最初から間違いなのだ。この監督が自分の趣味で、やりたい放題に作っている映画を、堅苦しく観てはいけない。真面目にしか映画を観られない人には「キル・ビル」は向かない。

そういえば、日本人俳優たちの喋る日本語が聞きづらかったのは、いったい何なのだろう。単に役者が下手だったのか。任侠映画で、こんなふうに喋ってはいないだろうから、わざとやってる、ということはないだろうが…。

オーレン石井の弁護士ソフィ役は、ジュリー・ドレフュス。なんか見たことあるなあと思ったら、彼女はNHKのフランス語講座の講師をはじめ、日本で活躍していた人だった。この映画では、彼女は大変な目に遭ってしまうが、なかなか重要な役どころだ。

Vol.1で生き残る敵3人は、今回あまり登場しないが、そのなかのひとり、エル・ドライバー(ダリル・ハンナ)が、笑わせてくれた場面がある。入院しているザ・ブライドを殺しにきて看護師に変装したとき、なぜか彼女のしているアイパッチに赤十字マークが書かれていたのだ。これには(笑)だ。ふざけていて、たいへん結構。

料理屋でロックを演奏していたのが、「The 5.6.7.8’s」という女性ロックバンド。全然知らなかったのだが、1986年から活動しているバンドだそうだ。ごろっぱち、と、どこかに書いてあったが、そう読むのか。
また、布袋寅泰さんの「新・仁義なき戦い」のテーマ曲や、梶芽衣子さんの歌「修羅の花」「恨み節」、クインシー・ジョーンズの「鬼警部アイアンサイド」のテーマの抜粋(これがテレビの「ウィークエンダー」〔新聞によりますと…のセリフで始まる事件ネタを扱った番組〕に使われていたと知ってる人は、年齢が分かってしまうが、これを聞くと即座に「ウィークエンダー」だ!と思ってしまうほど強烈な結びつきなのだ。そこまではタラちゃん、知っていないだろうな)、ナンシー・シナトラの「バン・バン」、ルイス・バカロフの「怒りのガンマン 銀山の大虐殺」など、使われる音楽もユニーク。

ある番組で、タラちゃんが自分の映画に使う音楽について語っていた。
まずは、映画のオープニングに使う音楽から探していき、60〜65%の音楽は撮影前に決まるという。
その音楽のリズムに合わせて、映画のカットが決まる。つまり、音楽が決まっている場合は、音楽最優先なのだ。
撮影時に音楽をかけることもあり、「ジャッキー・ブラウン」の撮影のときには、出演俳優が、自然に役に入っていけてよかった、などと言っていたらしい。
自分は監督だけど、ひとりの映画ファンでもある。ひとつひとつのシーンに、ビートがピッタリと寄り添うとき、それが映画なんだ、と話す。
布袋さんの曲というのは、予告編でも流れた、かっこいいテーマだろうか。このメロディは最高に映画にフィットしていて、貢献度は大だ。

ザ・ブライドの本名を言う場面では、音声に「ピー音」が入って、音が消された(笑)。
彼女の本名は、いったい何なのか。よっぽど変? いやらしい? そんなわけはないと思うが、これは続編Vol.2を観れば分かるのだろう。続編は来年の春、ゴールデンウィークかな。
さて、敵はまだ3人残っているが、舞台は日本を離れて北京、メキシコに移るという話だ。次は、カンフーとマカロニ・ウエスタンか。タラちゃんが日本を描かないぶん、面白みは薄れそうではある。
全体で3時間を超えてしまったせいで2部に分けたらしいが、次も突き抜けたノリで突っ走ってくれたらいいけれど。

ユマは、映画で使った刀を、彼女としては珍しく、思い出の品として持ち帰ったそうだ。

〔2003年10月25日(土) ワーナー・マイカル・シネマズ 大井〕



映画感想/書くのは私だ へ        トップページへ