劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン

VIOLET EVERGARDEN THE MOVIE
監督 石立太一
声の出演 石川由依  浪川大輔  子安武人  水橋かおり  諸星すみれ  遠藤綾  戸松遥  木内秀信
脚本 吉田玲子
2020年作品 140分
好き度☆☆☆☆★


ヴァイオレットは、スミレの花。エヴァーガーデンは、永遠の庭。
Violet Evergarden と、英語にしてみても、それを発音してみても、静かに気持ちにしみこんでくるのは、彼女のドラマを知っているからでも、もちろんあるだろうけれど。

「お客様がお望みなら、どこでも駆けつけます。 自動手記人形サービス、ヴァイオレット・エヴァーガーデンです」
このセリフを聞くだけでも、もう心に響いてくる。
テレビシリーズで何度も感動させられてきた彼女の生きざまが、これからどうなっていくのか、応援したい気持ちとともに。

彼女の生きざまといっても、はじめのうちは、まるで人形のように感情がなかった。
その驚異的な戦闘力を見込まれ、いいように戦争の道具として使われ、敵兵を殺し続けた。
軍では、上官のギルベルト少佐のもとで行動し、信頼して従っていた少佐が戦闘で瀕死になったときの最後の言葉「心から、愛してる」は、その言葉の意味を理解していないヴァイオレットではあっても、彼女の心を大きく占めることになる。
戦争が終わるとヴァイオレットは、少佐の友人である、郵便社の社長ホッジンズに引き取られ、代筆の仕事をするようになる。
「あいしてる」を知りたいと願いながら、周囲の人々や代筆の仕事で関わる人々との出会いのなかで、彼女はうれしいことも悲しいことも愛情も、(たぶん「あいしてる」の認識はないままに)さまざまに経験していく…。
これがテレビシリーズでの、おおきな流れだろうか。

映画版は「外伝」がすでにあるのだが、私はそれは見ていないので、テレビシリーズからの続きとして、本作に臨むことになった。

自分の死後も、娘のアンにあてて毎年、50年分の誕生日の手紙が届くように、ヴァイオレットに代筆を依頼したクラーラ・マグノリアの話は、テレビシリーズでは最も泣いた回かもしれない。
そのアンを祖母にもつ少女デイジーが、ヴァイオレットの物語にかかわってくるなんて、もう、なんてすばらしいこと考えてくれるのか、脚本家。(なんと、吉田玲子さんじゃないか!)(それとも、原作からそうなのか。)
しかも!エンドクレジットでわかったが、デイジーの声が諸星すみれさん! テレビシリーズでのアンも、諸星さんだったのだから、この配役は、神采配としか思えない。

ヴァイオレットが直接たずさわる仕事が、病気の少年の代筆。相手が子どもでもヴァイオレットは「はい」と答え、「…です」と話す。そんなところにも、まっさらな感情をベースにした彼女の無垢や純粋がうかがえて、保護(?)したくなるのだなあ。(戦うときは彼女のほうが強いけれど。)
「病気の少年」なんて、いろいろと鉄板設定だけど、そこはそれでいいのです。泣かせにきてかまわない、むしろ大歓迎なのです。
このエピソードは、電話の使い方が上手い。そのうち、手紙にとって電話が脅威になる、という郵便社の娘のセリフで布石をうっておいてからの、電話が果たした役割の大きさ。

一方、一通の手紙から急展開が起きる。え、そうだったの!?
どうなることかと見守る私は、ホッジンズ氏の「おおばかやろう!」に、よく言ってくれた、私も言いたかったんだよ!と思った。こんなに同調する思いの映画のセリフは、はじめて聞いたかもしれない。

そして、ヴァイオレットの涙、涙、涙…。
感情も、あいしてる、も、自然と彼女のなかからあふれだしていた。




〔2020年9月23日(水) イオンシネマ 板橋〕


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