シービスケット

SEABISCUIT
脚色・監督 ゲイリー・ロス
出演 トビー・マグワイア  ジェフ・ブリッジス  クリス・クーパー  エリザベス・バンクス  ウィリアム・H・メイシー  ゲーリー・スティーブンス
撮影 ジョン・シュワルツマン
原作 ローラ・ヒレンブランド
編集 ウィリアム・ゴールデンバーグ
音楽 ランディ・ニューマン
2003年 アメリカ作品 141分
ナショナル・ボード・オブ・レビュー…ベスト10第9位
サウスイースタン映画批評家協会賞…ベスト10第8位
アメリカ撮影監督協会賞
評価☆☆☆

シービスケットが出てくるまでの話が、長いな〜と感じてしまった。
馬主、調教師、騎手、それぞれが、それまで生きてきた道をある程度説明しなければ、彼らがシービスケットと出会い、彼に託した夢の大きさが、観ている観客に十分に伝わりにくいかもしれないと、作り手が考えたことは分かる。
また、シービスケットの活躍が、なぜ人々の注目を集め、人々に勇気を与えたのか、その背景にあったアメリカの大恐慌時代という世相を説明する必要はあっただろう。
原作は長いらしいから、それをなんとかまとめようとして、映画の序盤は、原作のダイジェスト的な展開になっていたのかもしれない。そこがまた、分かりにくい要素となって、逆にシービスケットが出てくるまでが長い、と私に感じさせたのではないだろうか。

たとえば、トビー・マグワイア扮する騎手が、ストリートファイトのようなボクシングをやる理由がよく分からなかった。(どこかの場面で理由を言っていたけど見落としていたのかもしれないが)
騎手の仕事だけでは食べていけなかったから、というのが理由だと思うが、映画を観ている間は、もしかしたらストレス発散の方法なのか、それとも、ただ、好きでやっているのかなあ?などとも、少し思ってしまったのだ。
それに、馬主が再婚するのだが、あれ?いつの間に離婚してたんだっけ?とも思ってしまったのだ。
全部説明しろとは言わないが、観ていて、頭に?マークが点ったところがあったのだ。

序盤が長いと感じたのは、その数十分の間、シービスケットがまったく出てこなかったから、ということもあるのではないか。
主役の馬が出てくるのを、いちばんに期待して観ていたのに、映画が始まってから、なっかなか出てこない。
もしも、3人の人間の主役のシーンとともに、シービスケットの幼い頃の描写が交互に入っていたら、印象は違っていたのではないか。原作ではそうなっていなかったのか、映像的に子馬を撮るのが、どこか難しかったのかは知らないが。
ただ、シービスケットと出会うまでの人間ドラマの部分がよかった、という人もいるに違いないから、これは個人的な感想であって、映画の捉え方は人それぞれであることは、言うまでもない。

さて、シービスケット登場以後は、ばっちりと目が覚めた(笑)。
なんといっても、シービスケットが小柄な馬だというのがいい。
小さい者が大きい者を倒す、というのは、とにかく痛快だ。
体高(というのか)が150センチくらいだったというから、彼(シービスケット)のそばに立ったら、背の低い人間でも、ほとんど目線より下に彼の背中があるわけだね。これは小さい、という印象を受けるはず。
シービスケットが小さいうえに、騎乗した人間が他の騎手に比べて大柄だったといえば、なおさら馬が小さく見える。このあたりも、小さな体で頑張っている印象を強く観客に持たせるだろう。

ふだんは寝てばかりで、最初は蛇行して走ることしかできなかったシービスケットが、やがて全米チャンピオンともいうべき競走馬ウォーアドミラルに挑戦状をたたきつける(たたきつけたのは馬主だが)。
その後は、騎手、馬ともに挫折があり、復活がある。
爽快なレース・シーンもあり、感動的なネタもある話である。
しかしながら、映画では、どこか、さらりと話が流れていってしまっているのだ。もっと、ぐぐっと心に迫るものが欲しかったと思う。

最後のレース展開も、単純に映画を楽しめばいいものを、なんとなく予定調和に終わった、という思いがあった。
淡々と描いていても、深い感動を受ける映画はある。それが、そうでもなかったという場合は、自分の波長と一致しなかったとしか言えない。
波長が合わないとなると、これは、感動的な場面でも、下手をすると、あざとく感じがちになってくる。共感の度合い、のめり込み方が違ってくるのだ。
観終わって、全体を振りかえってみれば、優等生的な感じの範囲で、まとまってしまっているなあという印象だ。

騎手役のトビー・マグワイアは、10キロ近く減量して、騎手らしい体を作ったという。最近は、役柄によって体重を増減するのは普通のことになりつつあるようだ。
トビー、馬主のジェフ・ブリッジス、調教師のクリス・クーパーとも、上手ではあるが、しかし、とりたてて絶賛するような演技でもなかったように思えた。
馬主の妻役のエリザベス・バンクスという美人女優が、嬉しい発見。初めて知った。いやー、美人だった。今後、注目しようっと。
それから、トビーの代役で騎乗した人は、本物の騎手なのだそうだ。見事に俳優していた。彼は、今後も俳優兼業で行くという話も聞いたが、どうなのだろう…。
そして忘れてはならないのが、競馬のラジオ放送担当のディスクジョッキー(?)役のウィリアム・H・メイシー。小道具の効果音を巧みに使いながら喋りまくるのが、ユーモラスで笑わせてくれる。

監督のゲイリー・ロス、主演のトビー、助演のウィリアム、そして音楽のランディ・ニューマンは、私が好きな映画「カラー・オブ・ハート」のスタッフ・キャストなのだ。その点で、けっこう期待もしたのだが、その割には、無難な出来という感じを受けてしまって残念。

映画の質はいい。でも、あっさりしていて、なにか物足りないと思ってしまったのだった。
映画を観たあと、シービスケットのその後はどうなったのかを知りたいと思った。
聞いた話によれば、シービスケットは余生をのんびり送ったというが、よい競走馬の子は残せなかったようである。

〔2004年1月25日(日) ワーナー・マイカル・シネマズ 大井〕


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