ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還

THE LORD OF THE RINGS : THE RETURN OF THE KING
監督 ピーター・ジャクソン
出演 イライジャ・ウッド  ショーン・アスティン  ビリー・ボイド  ドミニク・モナハン  イアン・マッケラン  ヴィゴ・モーテンセン  ミランダ・オットー  バーナード・ヒル  デビッド・ウェンハム  ジョン・ノブル  アンディ・サーキス  オーランド・ブルーム  ジョン・リス=デイビス  カール・アーバン  リブ・タイラー  ケイト・ブランシェット  ヒューゴ・ウィービング  イアン・ホルム
撮影 アンドリュー・レスニー
原作 J・R・R・トールキン
脚色 ピーター・ジャクソン  フラン・ウォルシュ  フィリッパ・ボウエン
編集 ジェイミー・セルカーク
音楽 ハワード・ショア
衣装 ナイラ・ディクソン  リチャード・テイラー
美術 グラント・メイジャー
2003年 ニュージーランド・アメリカ作品 201分
ナショナル・ボード・オブ・レビュー…アンサンブル演技賞
AFI(アメリカ映画協会)…トップ10
ニューヨーク映画批評家協会賞…作品賞
サンフランシスコ映画批評家協会賞…監督賞
サンディエゴ映画批評家協会賞…監督・美術装置賞
シアトル映画批評家協会賞…助演男優(ショーン・アスティン)・撮影賞
サウスイースタン映画批評家協会賞…作品・監督賞
フロリダ映画批評家協会賞…作品・監督・撮影賞
オンライン映画批評家協会賞…作品・監督・脚色・撮影・音楽・視覚効果・美術・衣装・音響賞
ダラス・フォートワース映画批評家協会賞…作品・監督・撮影賞
ロサンゼルス映画批評家協会賞…監督・美術装置賞
放送映画批評家協会賞…作品・監督・アンサンブル演技・音楽賞
ピープルズ・チョイス賞…作品賞(ドラマ部門)
アメリカ製作者組合賞
シカゴ映画批評家協会賞…作品・監督・音楽賞
ゴールデン・グローブ賞…作品・監督・音楽・主題歌賞
アメリカ監督組合賞
英国アカデミー賞…作品・撮影・脚色・特殊撮影・一般投票映画賞
アカデミー賞…作品・監督・脚色・編集・作曲・歌曲・美術・衣装デザイン・メイクアップ・特殊視覚効果・録音賞
評価☆☆☆☆

「勇気を出して。友だちを救うのよ!」

この言葉にグッときた。

敵の軍勢に突撃をかける直前、ローハン国の姫であり、セオデン王の姪であるエオウィンが、自分の馬に一緒に乗せているメリーに向かって言う言葉だ。この言葉は、戦いを前に、怖さに負けそうになる自分の気持ちを奮い立たせるためでもあっただろう。

考えてみれば、「ロード・オブ・ザ・リング」3部作とは、この言葉に尽きるのではないだろうか。
フロドもサムもメリーもピピンも、ガンダルフもアラゴルンもレゴラスもギムリも。皆が仲間を助け、仲間のために、命を懸けている。
その姿こそが観る者の感動を呼ぶ。

この3部作に関わった人たちには、素直に拍手を送りたい。
2年前の第1作から変わらずに、素晴らしい冒険と友情の物語を見せてくれたこと。
わくわくどきどきしながら、スケールの大きさに驚きながら、ファンタジーの世界に浸る楽しいひとときをもらったこと。
特に、この3部作の製作に数年をかけて凝りまくり、関係者みんなを引っ張っていった、監督のピーター・ジャクソン! あなたは偉い! その苦労(とは思っていないのかもしれないが)は、全世界のファンの熱狂ぶりで、すでに報われたことだろう。

原作を知っている人には、映画と原作との違いについて、違和感を覚えることもあるようだ。
映画には時間の制約がある。今回は短くまとめても3作で計9時間を超える、どえらい仕事。原作通りやったら、何時間かかるだろう?
私は1本の映画は3時間くらいが限度だと思う。もっと長かったら、途中に休憩を入れてほしい。

完結編の第3部「王の帰還」の上映時間は、3時間21分だ。
しかし、いざ観てみたら、時間の長さなど、少しも気にならなかったのだ、これが。
内容を要約すれば、「いい軍団と悪い軍団の大戦争」と、「指輪を捨てに行く3人の苦難の旅」、この2つが並行して描かれるのだが、とにかく画面からは、押しも押されもしないチャンピオン級の堂々たるパワーを感じる。これは監督をはじめとするスタッフの、完璧なまでの画面作りはもちろん、俳優たちの、作品に対する思い入れがなければ出てこないようなものに思える。
自分の演じるキャラクターは当然愛しただろうし、映画の中で仲間だった皆は、本心から本当の仲間のようだったに違いない。

この「王の帰還」では、ホビットたちの活躍がめざましい。メリーとピピンは戦いの中で大活躍するし、フロドとサムは困難を乗り越えて目的に近づいていく。観終わったあと、何よりも印象に残ったのは、この4人の小さな勇者なのだった。

純朴なホビットのフロドが、指輪の魔力に負けそうになって苦しむ、という話が意味するものは、善の心が、忍び寄る悪の誘惑と戦うことだ。強力な悪に打ち勝つために、自分自身がしっかりしなければならないのはもちろんだが、それに加えて、友情の手助けがある。
人を助けることの偉大さ。人間には、お互いを信じ、助け合うことが必要なのだ、とこの映画は痛いほど、それを教えてくれる(たとえ、それがうまくいかない場合があるとしても)。

同時に、責任感。フロドが負った任務は、どうしてもやりとげなくてはならない、重いもの。
苦しさのあまり、そんな任務は放り出したとしたら? 世界は魔王の支配するところとなる。なぜ僕が?と思っても、やらなくちゃいけない。それは何よりも、仲間のために。皆が悪に支配されるのはごめんだとばかりに戦っている。そんな皆を裏切ることはできない。

ここで、フロドを助けながら供をしていくサムの存在が、大きくクローズアップされる。1作目、2作目でも、何やら恩義のあるらしい(その辺の事情はよく知らないけれど、そんなことは問題ではない)フロドを忠実に守るサム。
今回はさらに困難に直面しながら、フロドを守り抜こうとする。
そして映画は、この忠義者サムに対して、素晴らしいラストシーンを持ってきた。
まったくもって、素晴らしいラストだった。こういう終わり方は大好きなのだ。

指輪がどうにかなったなら、そこで話は終わるのかと思っていた。
ところが、映画はそこからさらに続く。そして、その続きが抜群にいいのだ。
フロドとサムの未来の対比の鮮やかさも素晴らしい。2人それぞれの未来を遥かに思わせて、味わい深い。
忘れがたい仲間たちの美しい似顔絵が映されるエンドロールまで、感動の嵐である。

「王の帰還」は、さまざまな賞を得た。
この作品は、前2作からの続きだ。この1本だけでは、話が完全ではない。そうした点からいえば、「作品賞」というのは本来ならば、取る資格があるのかと考えないこともない。
だが、今回は3作揃って完結したところで「よくやったね」という評価の意味も大きいとも思うし、なによりも、1作で完結していないという問題が、ささいなことに思えるほど、映画としてのスケールが大きい

CGによる特殊撮影技術を最大限に生かした戦闘シーンは、人間だけではない(このあたりがファンタジーの強みだ)さまざまなキャラクターが入り乱れ、信じられない映像の大迫力に、本当にわくわくする。ここまでものすごいことをやってくれたら、けっきょくCGで作ったんだろ、などという批判めいた意見はどこかに飛んでいってしまう。

戦闘シーン以外でも、印象に残る場面はいくつもある
例をあげれば、ガンダルフが馬に乗って砦の道を延々と駆け登っていく、その白い姿の俯瞰。
大鷲が現われて、ホビットたちを掴み上げるところは、まるで絵画のようだ。

キャスティングも見事だった。イアン・マッケランのガンダルフなど、これを観てしまったら、もう他の俳優では考えられないほどだし、そのほかのキャストも、はまっている。

ホビットが他の種族と並ぶと、見事に背が小さくなっているのにも驚嘆した。俳優はそんなに小さいわけではないだろうから、これも特殊技術だが(撮影自体は、ひざ立ちで背を低くしているらしい)、なんの違和感もなく表現しているのはすごいと思う。観ているほうは、ほとんどそんなことは考えずに自然に受け入れているはずで、そういう意味からも、この「ファンタジー世界の構築」は完璧に素晴らしいものだったと思う。

この3部作は、確実に映画史の大きな足跡として残った。
これでピーター・ジャクソンは超大物監督になったわけだが、ありふれたハリウッド大作の監督には安易に進出してほしくない。たとえば、ティム・バートン監督のように、自分のテイストにこだわっていってもらいたい。(次は「キングコング」のリメイクを監督するので、ちょっと心配。)

〔2004年2月7日(土) ワーナー・マイカル・シネマズ 大井〕


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