大脱走

THE GREAT ESCAPE
監督 ジョン・スタージェス
出演 スティーブ・マックィーン  ジェームズ・ガーナー  リチャード・アッテンボロー  ジェームズ・コバーン  チャールズ・ブロンソン  デビッド・マッカラム  ドナルド・プレザンス  ゴードン・ジャクソン  ジョン・レイトン  ジェームズ・ドナルド  アンガス・レニー  トム・アダムス  ナイジェル・ストック  ハンネス・メッセマー
撮影 ダニエル・L・ファップ
編集 フェリス・ウェブスター
音楽 エルマー・バーンスタイン
原作 ポール・ブリックヒル
脚色 ジェームズ・クラヴェル  W・R・バーネット
1963年 アメリカ作品 172分
評価☆☆☆☆

観終わってから数日が経つが、いまだに時々「大脱走マーチ」が、ひょいと頭の中で勝手に演奏されている――。
その心躍る音楽に乗って、映画のラストで主な登場人物ひとりひとりが紹介される場面を思い出す。
トンネル王のダニーは、チャールズ・ブロンソン。
脱走を指揮するビッグXのバートレットは、リチャード・アッテンボロー。
調達屋のヘンドレーは、ジェームズ・ガーナー。
偽造屋のコリンは、ドナルド・プレザンス。
土運び屋のアシュレーは、デビッド・マッカラム。
製造屋のセジウィックは、ジェームズ・コバーン。
そして、独房王(The Cooler King)のヒルツは、スティーブ・マックィーン!

登場人物紹介の前の場面、つまり、映画のストーリー上のラストシーンも名場面だ。
ネタばれは控えるが、最後に画面に映るのは、主役級の俳優ではなく、ほんの脇役。だが、これがなんとも、ニヤリとさせられる、いい終わり方なのだ。
脱走はするなとドイツ軍にいくら言われようが、いくら何度も独房に入れられようが、絶対に脱走することを諦めない。絶対に屈服しないぞ、という精神が見事に表れている。

この脱走は実話だったので、結果はすべてハッピーエンドとはいかない。
下手をすれば暗い映画になってしまうところだが、それでも痛快な娯楽作になっているのは、やはりキャラクターの面白さと、ところどころに見られるユーモア、捕虜収容所なのに陰湿・悲惨にしなかったことなどが大きい。難しいことは言わずに、分かりやすくしていること。
とにかく、「収容所から脱走して逃げる」という話だけなのだから、シンプルこのうえない。
そして、やっぱり、元気な気分にしてくれる音楽が素晴らしい!

監督ジョン・スタージェス、音楽エルマー・バーンスタインのコンビは、1960年にも「荒野の七人」という快作を送り出している。
この「大脱走」も、ノリのいい映画音楽の筆頭といえる。いま、思い出の映画音楽リクエストなんて企画があったら、私は絶対に「大脱走マーチ」に一票投じているだろう。
…と言いながら実際に、4月から始まるNHKの「BSあなたが選ぶ映画音楽」に、ネット投票してしまったぞ。
エルマー・バーンスタインは、他にも1955年に「黄金の腕」という、ジャズによる映画音楽の傑作を書いている。「黄金の腕」「荒野の七人」「大脱走」は、エルマー・バーンスタインかっこいい曲マイ・ベスト3だ。
彼は2002年には「エデンより彼方に」を手がけている、キャリアの長い名作曲家である。

思い出す場面は、たくさんある。
チャールズ・ブロンソンがトンネルを掘っていて、土が崩れて埋まりそうになる場面。
ズボンの裾から掘った土を捨てる場面。
木材調達のため支えの横木が少なくなったベッドに寝ようとするとベッドが壊れてしまう場面は、ユーモラスだ。
絶望のあまり逃げようとして、鉄条網のところで撃たれる場面。
手作りの酒を造って、アメリカの独立記念日を祝う場面も楽しい。
デビッド・マッカラムが、脱走後に仲間を救おうとする場面。
もちろん、スティーブ・マックィーンがオートバイで疾走する場面は痛快だし、とても有名だ。
書き出したら、きりがない。
つまりは、名作なのである。

テレビの映画劇場で、前編・後編に分けて放送されたのをワクワクしながら観たのは、ずいぶん昔のことだ。
今回、観直してみて、脱走にいたるまでの計画が、かなりきちんと描かれているのが分かった。脱走計画など、地味になりそうな話なのに、適度なユーモアを挟んで飽きさせない
前半は、一匹狼的なマックィーンの脱走劇を、もうひとつの軸にして、集団脱走計画と並行して描いているのも上手い見せ方だ。

今回は、製作40周年記念ということで、ニュープリントでリバイバル上映された。
東京・築地の東劇という映画館へ、雨の降る祝日の朝、行ってきた。東劇の独占上映らしい。
上映30分前に劇場に着いたが、窓口の前には、すでに何人も並んでいた。
やっぱり、人気あるんだよなあ。
座席は半分ほど埋まった。朝いちの回、しかも今ではビデオでもDVDでも観ることができる作品ということを考えれば、じゅうぶんな観客の入りか。

たとえDVDなどがあっても、「大脱走」を映画館の大きなスクリーンで、その雰囲気を味わいたい、と思うファンが少なからずいる、ということは、自分と同じ気持ちを持った映画ファンの同志のように感じられて、とても嬉しいことだ。
しかも、懐かしい思いで観に来たであろう年配の人ばかりではなく、若い人もいる。
若い人には、この映画は、どう映るのか。古臭いなどと思われないだろうか。

隣に、おばあちゃんが座った。もしかしたら若かりし頃、スティーブ・マックィーンが好きで「大脱走」を観たのを、40年後に再び、という素敵なストーリーかも。いや、もしかしたら、筋肉隆々のチャールズ・ブロンソンが好きだったか。いやいや、それよりも、ハンサムなデビッド・マッカラムに「ほの字」だった、というのもアリだな。
などと思っていたら、おばあちゃん、途中で少しイビキをかいて眠っていた…。(その後、また起きて、ちゃんと観ていたようだが。)

「何があっても絶対に負けるもんか」という「不屈の精神」が、この、脱走を図るというテーマの映画全編に流れている。
観ていて、単純に面白い!
痛快な気分を味わえる。
へこたれない精神に励まされる。
それが最高の娯楽作たる所以(ゆえん)なのだ。

〔2004年3月20日(土) 東劇〕


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