ビッグ・フィッシュ

BIG FISH
監督 ティム・バートン
出演 ユアン・マクレガー  アルバート・フィニー  ジェシカ・ラング  アリソン・ローマン  ビリー・クラダップ  マリオン・コティヤール  ヘレナ・ボナム=カーター  スティーブ・ブシェミ  ダニー・デビート  マシュー・マグローリー
撮影 フィリップ・ルースロ
編集 クリス・リーベンゾン
音楽 ダニー・エルフマン
原作 ダニエル・ウォレス
脚本 ジョン・オーガスト
2003年 アメリカ作品 125分
評価☆☆☆★

BJ「とてもいいファンタジーなんだよ。でも、星は4つはあげられないんだなあ」

N「どうして? 感動したじゃない? 最後なんて震えるほど泣いてたくせに」

BJ「最後の場面は、すごく感動したんだ。問題は、これがティム・バートン監督の映画だってことさ。たしかに彼らしい味わいはあった。大男や小男、魔女、シャム双生児といった、いわゆる『奇形』、異形(いぎょう)のもの、が出てくる。それに、ヘンな笑いもある。たとえば、赤ちゃんが生まれるときに、母親からポンッと飛び出して、病院の廊下をツーッとすべっていく、なんて描写は、ヘンにおかしくて笑えるよね。こうした点はティム・バートンらしくて、いい」

N「あなたは『バットマン・リターンズ』のときから、奇形のことは言ってたわね」

BJ「うん。ティム・バートンの映画を観ると、普通の人間じゃないキャラクターが多いでしょう。『ビートルジュース』しかり、『バットマン』しかり、『シザーハンズ』しかり。そういうキャラゆえの、社会からの疎外感の悲しさが漂うんだ。アウトサイダー的なね。マイノリティ、つまり少数派の弱さや悲しさ、といってもいいかもしれない。奇妙な主人公が奇妙なことをして、奇妙におかしく悲しい映画なんだけど、それをファンタジーと言っているのは、これが夢のある話というよりも、普通の人間の映画じゃないからという意味が大きい。普通の現実とは言い難いから、ファンタジーとしか言えないよ」

N「ティム・バートン監督の映画には、『奇形』というか、異端というか、そういうものへの愛情が見えるような気がするわね」

BJ「そうなんだ。で、『ビッグ・フィッシュ』にも、そういう要素はあるよ。ただ、きれいすぎるんだ。話が美しすぎる。ティム・バートンなんだから、もっと毒が欲しいというか、悲哀感みたいなものが欲しかったんだよ。今回は万人受けする映画に近づいてるよね。ラストも、なんとなく、ほのぼのするし。最初にスティーブン・スピルバーグが監督するっていう話もあったらしいけど、それでも大丈夫だったかもしれない。細かな味付けは別として、どうしてもティム・バートンじゃなきゃ撮れない映画でもないと思ったんだ。エグさが足りないよ。ダークな感じが足りない」

N「うーん、それって、ぜいたくな望みなんじゃ…」

BJ「分かってるさ。でも、だから、観た直後は感動しながらも、なにか心の片隅では完全に満足はしていなかったんだ。で、しばらく経ってみると、ティム・バートンにしては爽やかで屈折が足らないせいなのか、あんまり強い印象が残っていないんだな。さっきも言ったけど、すうっと、きれいすぎるんだ、後味が。ティム・バートンがやるなら、もっと彼っぽさが100パーセント出た映画にしてほしかったんだ。文句ばかり言ってるようだけど、ティム・バートンが監督したからこそ、彼独特のテイストを求めてしまったわけさ。いい映画なんだよ。こんな素敵な映画を作ってくれたんだから、それでよし、としたほうがいいのは分かってる。気持ち的に、ティム・バートンには、簡単に万人受けしてほしくないのかもしれないな」

N「バートン監督自身が父親を亡くして、それがこの映画を引き受けた直接の動機だったらしいけど。やっぱり心境の変化があったのかしら。でも、私は、バートン監督がどうとか、こだわりがないから、何の問題もなくて、とってもよかったと思う。父と息子の間の感情というものは、女性には、どうしたって完璧には分からないのかもしれないけど、たいした問題じゃないでしょ」

BJ「そうだね。父と息子ということを、難しく考えなくてもいいと思うよ。親子の関係、でいいと思う」

N「大男が最初に出てきたときは、すごく大きいと思ったんだけど、最後の場面で、それほどでもないのに驚いた。ああ、やっぱり、いままでのは想像の中の大げさなホラ話だったんだなあ、って納得できたし、そういうふうに観客に思わせる見せ方は巧いと思ったの」

BJ「あれはぼくも驚いた。実際には、そんなに大きくなかったよね。そのへんの演出は憎いところだね。ところで、フェリーニ監督の映画を思わせる、という批評があったんだけど、たぶん、最後の『祝祭』のムードのことを言っているのかもしれない。ぼくはフェリーニはよく分からないけど、なんとなく『祝祭』の感じは分かる」

N「お父さん、幸せだったんでしょうね。最後に、ああなって…」

BJ「ああいう性格のお父さんにとっては、これ以上ないだろうな。最後はほんとに涙だね。…ただ、なんであんなことで父子が喧嘩して縁を切ってるのかが分からない。よっぽど長年の間、子どもを差し置いて、自分だけが目だっていた父親なのかなあ、と思っちゃうよ。それもすごいことだよね」

N「父親としては悪気はないのよね。ホラ話でみんなを楽しませてあげようとしてるんだもん。それに、自分にとっては、つらい思い出だとしても、面白く脚色してしまえば、人生、楽しくなるっていうことじゃない?」

BJ「つらいことも、考え方次第でおもしろおかしくなる、自分も他人も楽しい一石二鳥、ってことだね。人生肯定の映画だよ」

N「ビジュアル的に印象的なのは、彼が彼女に出会ったところかな。運命の一瞬って感じ。世界が止まっちゃうのね。『ウエスト・サイド物語』の出会いのシーンに似てるかも」

BJ「印象的といったら、水の中で人魚に会うところ! …人魚でいいのかな、あれ?」

N「高いところに掛けられた靴!」

BJ「傾いた家を大男が、よいしょって直すところ!」

N「洞窟から大男が出てくるところ!」

BJ「森の木が襲ってくるところ!」

N「プロポーズのとき、水仙がいっぱいだったこと!…この映画って、絵本にしたら最高かも!

BJ「そうだね! でも、ぼくがいちばん好きだった場面は、父親の浸かっているバスタブに、服を着たまま、母親が入っていくところ。ああ、こんなことまでするんだ、こんなに相手のことを好きなんだ、って感動したよ」

N「あの場面はよかったわね。それに、父親が水に潜ってるのは何なんだろう、と思って、あとで考えたら、ああ、そういうことかあ、って。よく出来てるわ」

BJ「やっぱり、いい映画だね。文句言うのはやめよっか。ぼくたちも、将来、ああいう夫婦になりたいね、ノーマ?」

N「なりたいね。あのお父さんみたいに明るくいきましょ!」

BJ「ホラ話でいっぱいの人生でもいいじゃないか、ってことだね。楽しく生きて、幸せに死ねたら。それが君と一緒の人生で幸せだったと思えたら、きっと最高だね

N「お互いに、そうなれますように!」

〔2004年5月16日(日) ワーナー・マイカル・シネマズ 大井〕


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