+++ 東京公演・帝国劇場(2004年12月11日・夜の部) +++

私の『SHIROH』初観劇レポート。頑張って思い出しながら書きますが(やや不安)、たぶんレポートではなく感想になってしまうでしょう。

私の運命(?)が変わったこの日の公演は、いつも新感線を一緒に観に行く友達とは別の友達と一緒の観劇でした。別口で先にチケットをgetしていたため、新感線FCの優先予約には新感線初体験の友達を誘いました。一度観てみたい、ということだったので。それが取れてみたら3列目で、今までで一番良いお席でした。ラッキー。

劇場に入ってみたら、まず目に飛びjこんで来るのが、舞台の中央と両側の壁に描かれた特大のイラスト。チラシと同じ山本タカトさんの描く2人のSHIROHと天使の絵でした。まずこれに圧倒されました。舞台は階段状で(八百屋舞台と云うそうです)その周りに無造作に置かれたいくつものTVモニター。このモニターには街の雑踏と行き交う人々の映像が映し出されていました。その意味は、物語のエンディングでようやく明かされます。場内に流れる音楽はQUEENのトリビュート・アルバムのようです。曲はQUEENだけど、歌い手はまちまちの様子(女性だったり)。これからロック・ミュージカルが始まるんだ〜、という期待感で一杯になりました。
そして、場内の照明が暗くなり、低音のドラムのリズムに乗せていつものオープニング曲が流れ始めました。帝劇でもこれをやっちゃうんですね(笑)。さすが新感線。

最初に舞台の上に現れたのは、高橋由美子さん、そして高田聖子さん。シーンが変わって、他の出演者が次々と登場。そして主演の上川隆也さんが満を持しての登場、という感じでした。歌舞伎なら、思わず”○○屋!”とかけ声を掛けたくなるような間合いの、カッコイイご登場の仕方でした(別に私は上川隆也さんのファンではありません)。で、いきなり朗々と歌うのです。これにはちょっと驚きでした。主演が2人のSHIROHという設定と聞き、歌うのは中川くんのSHIROHの方で、上川さんは歌わぬものとばかり思っていたので、まずびっくり。して、ちゃんと歌えていることに、またびっくり。さらに声の良さにまたまたびっくり。
そしてすぐさま、津屋崎主水以下と剣を交える殺陣のシーン。いきなり名乗りを挙げるところは”桃太郎侍”みたいだなあ、と思ったり、殺陣のシーンになるとその太刀さばきの良さに、”宮本武蔵”みたいと思ったり。いや作品は全然違うんですが、さすがに色々な難役をこなしてきただけのことはあって何をしても絵になりますね。
お福役の杏子さんはバックコーラス(ミュージカル畑の皆さんですからね)の方とは全く違うハスキーな声質でどうなんだろうと思っていましたが、やはり他の誰とも違う感じで最初は違和感を感じてしまいました。その昔ロック・コンサートにばかり通っていた頃、バービー・ボーイズとはイベントで共演することがけっこうあったので、懐かしさ倍増。バービー・ボーイズ時代そのままの杏子姉さんがそこにいました。
続いてのシーンで、ようやくもう一人の主役の中川くんの登場。声は良く伸びるし、歌はとにかく上手い。中川くんの声は初めて聴きますが、”SHIROH=神の声を持つ少年”という構図は、キリスト教と深く関わるお話とあって、私の中ではボーイ・ソプラノに勝手に変換されていたので、こちらも最初は違和感を感じて仕方ありませんでした。私は”少年合唱好き”という別の姿も持っていたりします(苦笑)。この物語をノンフィクションとした場合、16歳で変声してないなんてどうなのよ?という意見もあるかも知れませんが、人の体の発達は年々早まっている傾向があり、現在では12〜13歳ぐらいで変声期を迎えてしまいますが、数百年前ということを考えれば、16歳でボーイ・ソプラノは十分ありえる年齢です。あ、話が脱線。でも現実的に考えると12〜13歳の子供がこの物語の核として舞台に立つ、こと自体どう考えても無理があります。ましてやロック・ミュージカルでは。このあたりを考えると、まさに中川くんが適役だったと思わざるを得ません。
次にご登場の益田甚兵衛役の植本潤さん、実は今回ご出演の役者さん達の中で一番公演を多く観ているのが、実はこの方だったりするので、その姿と低いしゃがれ声に、ただもう驚くばかり。花組芝居ではいつもは女形。高くてよく通る声をしていらっしゃいます。
そして江守徹さんのご登場。いやー、踊ってる!歌ってる!!まさか江守さんまでこういった趣向に参加(?)するとは思いませんでした。
物語は別にして、色々な出演者の方の観たことない姿の連続だったので、それだけでも驚きの連続でした。そうするうちに、あっという間に1幕終了。ほんとにあっという間です、どのくらい時間が経ったのかという感覚がまったく無かった。
2幕はいきなり戦闘シーンで幕が上がりました。お〜やっぱりロック・ミュージカルだった、と初めて気づいた瞬間。1幕を観ている時点では、どの曲も耳馴染みが良く聞き易かったので、あまりロックしていないな〜、という印象だったので、これは嬉しかったデス。
2幕では中川くんが歌って歌って歌いまくり、ロックのリズムに乗せて一気に物語は終局へ。こういうタイプの曲では上川さんでは流石に分が悪いらしく(役どころもあるけど)、上川さんの歌うシーンはほとんどなし。上川さんの存在感が薄い気がして、主演が2人になってはいるけど、本当の主役は中川くんだったのね、と、ちょっと物足りなさを感じながら鑑賞。初めて舞台で観る上川隆也だったので、もっと観たかったという、全く個人的な希望があったので。
だけど、これが。ラストシーンで、それまで私が持っていた印象がまるで逆転。舞台は中川くん中心に進んでいたのに、その流れを一気に引き寄せてしまったように見えました。それくらい、最後の四郎の懺悔は魂を掴まれるような悲痛さに溢れていました。最後に美味しいところを全部持っていってしまったのは、やはり上川さん、あなたでした。この物語の扇の要が四郎=上川隆也だったのでしょう。
新感線の舞台を観て泣くことはありえなかったのに(じーんとして思わずホロリとくることはあったけど)、見終わったら目頭が熱くなりました。何ともいえない切なさに、言うべき言葉が見つからず、座席に深く身体を沈めたまま立ち上がることもできない心境でした。
カーテンコールが始まり、神妙な面もちの出演者が次々と現れてカーテンコールが始まると、場内、割れんばかりの拍手。目を潤ませながら拍手を送り続けると、2度目のカーテンコール「光を我らに」の音楽が響き始め、明るい表情を取り戻した出演者が続々とステージ上に集結。そこで中川くんが「さあみんな立って!コンサートだよ!」。その声に呼応するかのように、客席はあっというまにオール・スタンディングのコンサートのような状態に一変。終わり方が切なかっただけに、その気持ちを癒してくれるような本当に嬉しいカーテンコールでした。”はらいそ”に導かれた信者の姿にも重なりました。
その後、上川さんと中川くんで2回ぐらい(?)カーテンコールに応えてくれました。中川くんが客席に向かって思い切りの投げkiss!それをジャンプして空中で奪い取り、逃げ去る上川さん。ええーっ、という表情で後を追って引っ込む中川くん。心憎いばかりの演出でした。

見終わった後も興奮醒めやらず、アンケートに書きたいことがたくさんあるのに、言葉が出てこない状態で、ただ、”こんな素晴らしい舞台を本当にありがとう!!”という特大の字でスペース一杯を埋めることが精一杯の自分が情けなかった。文句無く、今まで観たお芝居の中で私のベストワン。これはこの後も、たとえ再演されたとしても、きっと変わらないだろうと思います。私の心の一番深いところに、確かに刻まれました。
ぼーっとしたまま劇場を後にし、どうやって帰ったか覚えていません。

見終わってから気付いたことをいくつか。
まず音楽。ロック・ミュージカルとはいうものの、以外と聴きやすくて、ロックが苦手な人にでもすんなり受け入れられた音楽でした(一緒に観た私の友達がそう)。私としては、もう少しロック色の強いものを期待していた部分があったので、その意味ではちょっと残念。ただし、どの曲も想像以上にクオリティが高くて、今までの新感線の延長戦で考えていた私は、見事予想を裏切られました。もちろん良い意味で。いつまでも耳に残る音楽の数々が多数ありました。賛美歌の色合いの濃い曲もあって宗教曲好きの私(少年合唱好きですから)としては嬉しい誤算でした。
次に上川さん。他の役者さんたちに比べて演技が硬く感じられました。ひとりだけ、ピンと張りつめたれた弦のような緊張感が最後まであった気がします(本人が緊張している、というのとは別ですよ)。何かのきっかけで今にも切れてしまうんじゃないかと思わせるようなギリギリで切羽詰まったような雰囲気、とでもいいましょうか。でもこれは回数を重ねて観るうちに、これこそが四郎が置かれた状況なんだな、と納得させられました。決して誰にも自分の弱みを見せることのない四郎、観客にさえも。上川さんなりの解釈だったのでしょうか。それがラストシーンの切なさにも繋がるわけですが。観た人全てに伝わらない危険性はあるかもしれないですね。
そしていつもの新感線と比べると、笑えるシーンが圧倒的に少ない。これは物語を考えたら当然と言えば当然なのですが、いつものノリを期待するとハズされます。ただし作品としての満足度がそれを遙かに上回ってしまうので、それでもよし!と納得させられてしまうだけの質の高さはあったと思います。
何しろ初観劇だったので、どこまでがセリフでどこからがアドリブかは全くわからず。初日が開いて間もないので、アドリブはそう多くはなかった気がします(後から考えると)。甚兵衛さんとお福のシーンでの日替わりアドリブは「我々はロビーの探索に行って参ります」だったと記憶しています。
最後に、寄せ鍋、いやまるで闇鍋のようなバラエティーに富んだ出演者の皆さんの強烈な個性が随所に散りばめられた作品。それが『SHIROH』の魅力のひとつでもあったと思うのですが、通常のミュージカル作品では考えられないことが満載でした。新感線だったから出来た作品であることに間違いありません。声質だけを取ってみても、中川くんのようにミュージカルの枠からはみ出してしまうような独特の声(歌い方)、ロックが似合う杏子さんのハスキーボイス、潤ちゃんのしゃがれ声、高橋さんのツヤのある声、秋山さんのブルースが似合いそうな大人の声、上川さんの語るが如き声、ひとつとして同じものがありませんでした。決してレベルが揃っているわけではないのに、得も言われぬハーモニーを奏でている。それこそが、この作品の魅力となっている気がしました。どこをつついても何が出てくるかわからないような危うさに満ちていて、これだけアクの強い役者さんたちが揃っているのに、よくぞこれだけ作品としてきっちりまとまっているものだと、これは本当に感心しました。

観劇からしばらく経ってみて、しみじみ面白かったなあ、と思い、もう1日分チケットを取っておいて良かったと心底思ったのですが、同時に、もはやそれだけでは気持ちが納まりそうになく、早速さらに1公演分確保してしまった自分がいました。さらに、私がはまったのは『SHIROH』だけではなかったという事実に気づくのは、もうしばらく後でした(笑)。

思いがけず長文になってしまいました。これが私の『SHIROH』重病患者への序章でした(笑)。