暖かな冬B



 「ねえ、お願いが3つあるの」

 たいやきをひとつ食べ終えたあゆが、上目使いに僕を見上げる。

 「俺が天使の人形に見えるか?」

 ふるふる、と首を振るあゆ。そして小首をかしげて僕に問いかける。

 「ダメ?」

 笑顔の不意打ちに、いきなり心臓の鼓動が激しくなる。

 それを隠すように、わざと彼女から目線を外し、

 「まあ、いいけど、俺はそんなに金は持ってないからな」

 と、わざとぶっきらぼうに答えた。

 「お金なんていらないよ。そんなにはね」

 あゆはそんな僕の態度を気にするでもなく、

 そう答えると、いきなり立ち上がった。

 「そんなには、って…」

 一瞬、ポケットの財布の中身を確認しようとした僕の頭を両手でバスケットボールを持つようにあゆが抱えた。

 じっと僕の目を見つめながら、彼女が問う。

 「一緒に商店街まで行ってくれる?」

 「うん」

 返事をすると同時に両手で首を立てに振らされる。

 まあ、その程度の「お願い」ならわざわざ言わなくてもと思ったが、あゆのするに任せた。

 「もうちょっと、たいやき食べさせてくれる?」

 「いいよ」

 また、返事と同時に首を縦に振る。

 「あのさっ、わざわざそんな・・・」

 僕の言葉を彼女の言葉がさえぎる。

 「ね、キスしていい?」

 「いいよ。」

 とっさにそう答え、首を縦に振った。

 が、1秒程たってから急にあゆが言ったセリフの意味が大脳に届いた。

 (恐竜か僕は?)

 「え?」

 もう一度聞き返そうとした時には、あゆの両腕が僕の首に巻きつけられていた。

 やわらかなあゆ唇が、僕のかさかさの唇に重なる。

 「え?あれっ」

 ぼおーっと、あゆを見る僕。

 きっと鼻の下が伸びているに違いない。

 「えっと、小倉あん」

 気が動転し、硬直している僕に、彼女が訳のわからない言葉をかけてきた。

 「え、なに?」

 「あん、付いてるよ」

 「え、どこ?」

 あわてて僕は頬っぺたのあたりに右手を伸ばす。

 「嘘だよ」

 そう言うと彼女は、今度はさっきよりもゆっくりと、そしてさっきよりも長い時間、僕の唇に自分の唇重ね合わせた。

 「ばか(笑)」

 「どーせばかだよ」

 これ以上はないくらいに、僕の顔は真っ赤になっているだろう。

 「でも、だーい好き!」

 今度こそ僕は、あゆをおもいっきり抱きしめた。




  


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