ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地黎明

黄飛鴻 / Once Upon a Time in China

キャスト 黄飛鴻(ウォン・フェイフォン) 李連杰(リー・リンチェイ)
梁寛(フゥ) 元彪(ユン・ピョウ)
暴牙蘇(ソー) 張學友(ジャッキー・チュン)
十三姨(イー) 關之琳(ロザムンド・クワン)
猪肉榮(エイ) 鄭則士(ケント・チェン)
嚴振東(イム) 任世官(ヤム・サイクン)
スタッフ 監製・導演 徐克(ツイ・ハーク)
編劇 徐克(ツイ・ハーク) 、阮継志(ユェン・カイチー)、梁曜明(レオン・ユーミン)、ケ碧燕(タン・ピクイン)
武術指導 袁祥仁(ユェン・チョンヤン)、袁信義(ユェン・シャンイー)、劉家榮(ラウ・カーウィン)
剪接 麥子善(マック・チーシン)
原著音楽 黄霑(ジェイムズ・ウォン)
データ 製作 香港電影工作室

(ゴールデン・ハーベスト提供)

公開年月日 1991.8.15〜10.15
日本公開年 1994年(新宿シネパトス)
興収 HK$ 29,672,278
時間 128分(DVD版)

ストーリー

 医局兼拳法道場である寳芝林(ポーチーラム)を営む黄飛鴻は広東の名医にして南派少林拳の達人。獅子舞の名手でもあり「獅王」とも称された実在の英雄的人物である。

 清朝末期、列強諸国の圧迫に混乱する中国。アメリカ移住の斡旋を装い、中国人を強制労働させている外国人組織の存在を知った黄飛鴻は、組織から命を狙われることとなる。一方、武術家として名を売ろうとする武道家・嚴振東黄飛鴻にしつこく挑戦を続ける。無用な戦いを避けようとする黄飛鴻だが、混乱に乗じる街の暴力団組織が嚴振東を雇い入れ、さらに外国人組織と結託、証人を殺害した上に恋人・十三姨を拉致。ここに至って黄飛鴻の怒りが爆発、組織の基地であるアメリカ船の船着場に乗り込むのだが・・・・・。

四方山話

 <第一作>

 記念すべきワンチャイシリーズの第1作、古装武侠片ブームの一翼を担った大ヒット作。第11回香港電影金像奨において、最優秀監督賞・最優秀編集賞・最優秀アクション監督賞・最優秀音楽賞を獲得、興行的にも91年度香港映画興行収入8位の成績。以降シリーズ化され映画は現在6作、TV版も5作にわたって製作され徐克の代表作のひとつとなった。

 

<キャスト>

 主演の李連杰はこの時期低迷期であったが、この1作で第一線に復活、以降ワンチャイシリーズのほか「方世玉」('93)「方世玉2」('93)と立て続けにヒットを飛ばしトップスターの座についた。

 李連杰以外にも、元彪張學友關之琳と多彩なキャストが単なる顔見世に陥ることなく、この大作に厚みを加えている。中でも元彪は、この映画の製作時点では明らかに李連杰より格上だったと思われる(クレジットでも李連杰と同列に「主演」とされている)が、一説には「過去の人」李連杰だけでは集客力が弱いと考えた徐克が出演をかきくどいたと言われる。

 

<アクション>

 徐克お得意のワイヤーワークと、李連杰の素晴らしい武技が見事に合体し、かつてないアクションを構築。もっとも李連杰はクランクイン早々雨の場面の収録で脚を痛め、さらに終盤倉庫での決戦場面では脚を骨折、かなりの部分をスタンド(代役)の熊欣欣が担当したらしいが、かえって麥子善の編集技術が冴え渡り、有名な梯子を使った決戦シーンは特に圧巻。

 スタンドが多用されていると言うが、この映画の李連杰は本当にカッコいい!主題曲「男児當自強」とともに李連杰が登場すると主役登場!とばかりに画面が一気に引き締まる。李連杰の武技を評して「格闘技ではなくただのダンス」とする向きもあるが、これはむしろ誉め言葉と捉えるべき、まさに踊るような流麗・華麗なアクションの連続、しかも随所の「キ メ」が本当にカッコいい。「キメ」と言えばあまりにも有名な黄飛鴻の両手を広げるポーズ、これは李連杰自身の発案だという。

 

・・・辮髪・長袍姿がこんなにカッコいいのは黄飛鴻=李連杰しかいない!

<テーマ>

 「黄飛鴻」は日本でいうところの水戸黄門、と言われるが、香港映画およびテレビで繰り返し製作されてきたおなじみの人物であり、黄飛鴻映画はワンチャイ以前に90本近く作られている。

 ワンチャイが従来の黄飛鴻映画と一線を画すのは、単なる勧善懲悪ものではないところ。主役の黄飛鴻は武道の達人でありスーパーマンではあるが、武術だけでは中国の置かれた閉塞状況をできないことを認識しており、国の行く末を案じ、自身の進むべき道に思い悩む青年として描かれている。

 

 まず映画は西洋式軍艦に取り囲まれた清軍船から開幕、当時の中国が置かれた閉塞状況を象徴的に示す。続いては出征する将軍を送る獅子舞のシークエンス。獅子舞の演者が西洋軍隊の銃弾に倒れ、獅子舞を取り落とす。しかしその獅子は黄飛鴻の手によってマスト頂上へかけのぼる・・・。映画全編のテーマを集約したかのようなトップシークエンスであり、ここでの獅子は中国の象徴であろうか。

 また写真機の不調で籠の中の小鳥が焼け死ぬシークエンスも、籠の鳥を中国の象徴と見れば、国外情勢に目をやらぬまま西洋文明に打ち負かされる中国を意味していると見ることもできる。

 こうして執拗に「西洋文明に蹂躙される中国」を繰り返し描き、中盤では「武術では銃に勝てぬ」とまで黄飛鴻に言わしめた後だけに、黄飛鴻が銃を捨て指弾を飛ばすことで銃を持った西洋人を討ち果すラストシーンは、最高のカタルシスを迎える。「伝統中国の再起物語」とでも言うべきこの映画が、'90年代に入り中国返還を意識し始めた香港人に、大受けしたのも当然であったかもしれない。