漆の話

「漆かぶれ」について新しくページを作りました。
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漆はご存じの通り、漆の木から採取する樹液で、漆を使っての仕事は、我が国では6000年の歴史があります。最初は接着剤として使用され、ヤジリを木の取っ手にくっつけたり、金箔を張ったり、かけた陶器をつなぎ合わせたり(金継ぎ)するのに使われました。そしてその後、今のように、お椀や家具の塗料として使われるようになりました。 また一説では、足長蜂の巣の付け根も漆が使われている、といわれております。

漆の木は日本を含む東アジアに自生、植林されています。漆を採取する方法は、ゴムの採取と似ています。漆の木の表面に刃物で横方向に傷を付けます。すると漆の木がまるで自分の傷を治そうとするかのように、乳白色の樹液をじわーっと出します。それを時間をかけて集めたものを生漆(きうるし)といい、私の家具の塗装にはこれを使います。 傷を付けて採取した漆の木

生漆は戦前までは日本でもたくさん採取されましたが、手間のかかる労働に人件費がかさむため、今では日本産漆はあまりに高価になってしまいました。私は通常の家具の塗装には、中国産の漆を使い、手間暇をかける工芸品には日本産漆を使います。質としては日本産漆の方が乾きやすい等の長所がありますが、数回塗る程度の普通の塗り方では見較べても違いは分からないと思います。

漆は、酸、アルカリ、アルコールに強く、熱に至っては300℃位まで耐えます。ですから、昔のニス塗りのちゃぶ台のように、天板表面に白い輪ができたりしません。しかしながら、ほかの自然の塗料と同じように、紫外線に弱いという欠点があり、紫外線の強い部屋では、漆が劣化しますので、気をつける必要があります。

木から採取しただけの漆(生漆=きうるし)は乳白色で、空気に触れると透明感のある褐色に変わります。漆というと、一般には輪島塗のような色漆を想像しますが、色漆は生漆を低温加熱攪拌し、水分を除去し、艶を持たせた木地呂漆といわれる漆に、黒色は微細な鉄粉を、その他の色は顔料を混ぜたものです。私は、座卓などに時々朱漆を使いますが、普段の仕事は生漆を使って、拭き漆という方法で、家具を仕上げています。拭き漆は、木地に生漆を擦り込み、余分なものを拭き取るという作業です。一回塗ると乾かし、ペーパーで研磨して、また、塗るという作業を繰り返します。私は通常の家具で5〜8回、工芸品では40回位拭き漆をします。  生漆

漆を乾かすには、湿度と温度が必要です。洗濯物を乾かすのと違って、空気が乾燥していると、漆は乾きません。漆の成分のウルシオールが固まるには酸化、重合する必要があり、酸化するために水分を必要とし、重合するために温度が必要なのです。ですから、漆は75%〜90%の湿度と、15℃以上の温度を必要とします。つまり、漆は冬のような気候では一日おいても乾きにくく、梅雨の頃のような、じめじめ、ムシムシした時なら2〜3時間で乾きます。昔は、漆の仕事をするには、季節と、お天気を気にしなければなりませんでしたが、今では、温湿度管理が容易にできますので、年間を通じて安定した仕事ができるようになっています。

私が漆にこだわり続ける理由は、それが美しく強いことと、それから、自然の塗料であるために健康に害がないということです。化学物質があふれる現代、家具も、合板の接着剤、化学塗料が、人の健康に害を及ぼしています。昔だったら当たり前であった、無垢材と、自然の塗料を使うことは、やり抜く価値のあることだと思っています。
箱
生漆で仕上げた箱(矢澤金太郎作)
内朱座卓
朱漆で仕上げた座卓(矢澤金太郎作)

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