- 風邪をひいている間にいろんなことが過ぎて
- 夕方になって久し振りに外を歩いてみる
- 僕はまた携帯電話を手放せなくなった
- 熱に浮かされながらもコールにコールを返す
- 大丈夫、といつも言っていたいわけじゃないけれど
- 浅い眠りの中でいろんな人と再会する
- 夢だと分かっても気持ちはきっと本物だろう
- けれど誰だったのか思い出せなくて笑ってしまいそう
- 薬の紙の箱を覗き込みながら耳を澄ませている
- 熱の引いてしまった時は、横になると咳ばかりが止まらなくて
- 僕は僕に必要なものが少しの間、分からない
- クリーニングの袋から出して着て来たスーツのポケットで
- 両手を握り締めて歩き続ける
- 点滅する信号機に走り掛ける
- 煮詰めたみたいな夕日が線路の向こうの低い屋根に沈む
- 風がなくて僕は
- 常々捨てに来る類の感情もしばらくは抱え込んで
- 少し思い出も多い気がする、また夏が来る
- 「いつまでも」
- くらい刹那的な言葉もないと、ある夜思うけれど
- 僕が連れて行けるのは一つくらいだ
- 小さく
- ある朝ボートを漕ぎ出す時も
- 信じ難く溺れる時も
- いつまでも
- 虹をこえて
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