「ピーターラビット」の本を、この世に生み出した作家ビアトリクス・ポター。
私はピーターラビットの絵くらいは知っていたが、作者のことは、まったく知らなかった。
映画のいいところのひとつは、
実在した人物についての知識も増えることだ。
たとえ、脚色を含んで、事実と異なる部分があるとしても、まるっきり知らないよりはいい。
この作品は、ビアトリクス(レニー・ゼルウィガー)が、自作の出版にあたって出版社の担当になったノーマン(ユアン・マクレガー)と出会い、お互いに恋におち、やがて、ある厳しい試練に遭う、という話。
93分という短めの時間で、まとめられている。
もっと長く、話を続けようとすれば、続いたはずだが、このエンディングは…
ビアトリクスのノーマンへの愛、そして彼女が湖水地方の豊かな自然を守っていくようになったこと、を描けば、じゅうぶん、という脚本なのだろう。
監督がクリス・ヌーナンと聞いて、あ、「ベイブ」(1995年)の監督だと思った。
印象に残っていた名前だったのだ。
映画を観た後で調べたら、「ベイブ」以来、11年ぶりに作った映画のようだ。その間、何をしていたのか知らないけれど、信じられないような、すごいブランクの長さ…。
この作品、
いかにもイギリス映画らしい雰囲気、と思ったのだが、ヌーナンさんはオーストラリア人だっけ!
もっとも、イギリス映画らしい、というのが、どういうものかというのは、説明しづらい。
しっとり感があるというのか、商業的なハリウッド映画の、からんと乾いた感じとは、根本的に違うような気がするのだ。じつに、おおざっぱで一部分のみを捉えた言い方で申し訳ないが。
レニー・ゼルウィガーは好演。自分でビアトリクス・ポターのことを調べ、
いろいろな彼女のイメージから取捨選択しながら演じたそうだ。
プロデューサーも兼ねている彼女、チカラ入ってますね。
私はビアトリクスが、どんなお顔をしているのか知らないから、その点でも違和感なく観ることができた。
ユアン・マクレガーは、実直、さわやかな青年を嫌みなく演じた。
歌をうたうシーンがあって、「ムーラン・ルージュ」のような美声を聞かせるのかと思ったら、
フツーに歌った。(笑)
…当たり前か。普通の出版社勤めの人という設定なんだから。
そういえば、レニーとユアンの共演は、
「恋は邪魔者」(2003年)で、すでにあった。あまり気に入った映画ではなかったが、そのときも、2人の共演のほどは、悪いことはなかったのである。
ユアンの姉の役は、エミリー・ワトソン。
安心して見ていられるのは、
もはやベテランのような風格。
ビアトリクスの友人になる、姉御のように頼りがいのある存在を、しっかり演じていた。
あんまり出番はなかったけど。
イギリスの湖水地方の風景が、とくに映画の後半に、たくさん出てくる。
ここは、ストーリーと別にしても見どころ。
出版の印税収入で裕福な身分になったビアトリクスは、土地を買い取って、この自然環境を保護していた。素晴らしいことです。
ビアトリクスの10歳の頃を演じたのが、ルーシー・ボイントン。…可愛い。成長したら、レニー・ゼルウィガーの顔になるかどうかを想像しても、不自然ではないなと思える、ちゃんとした配役だ。
欧米の映画って、子役のレベルが高いものが多い。
(日本映画もそうかもしれないが、私はあまり日本映画を観ていないので、なんとも言えない。)
音楽も素晴らしい。担当はナイジェル・ウエストレイクという人だが、追加音楽で、
レイチェル・ポートマンの名前をオープニングタイトルで見て、すごく楽しみだった。
彼女は胸に染みる音楽を書いてくれるのだ。
それぞれの映画感想のときにも、よく彼女の音楽については言及しているのだが、「サイダーハウス・ルール」(1999年)、「ショコラ」(2000年)、「イルマーレ」(2006年)など、彼女の音楽なしには映画も輝かない、と言ってしまおう。
私は「ミス・ポター」で(も)、かなり泣かせてもらったのであるが、その原動力の多くは、もしかしたらレイチェル・ポートマンの音楽によるのかもしれない。
泣くようなところでなくても、ああ、いいなあと、うれしかったりして、なぜか泣けていた。
オープニング、絵の具の準備から、それを紙に塗るところ、いいです。
絵が動くところ、絵が逃げていくところ、いいです。
本当に、誠実に作られた、良質な小品。