つぐない

ATONEMENT
監督 ジョー・ライト
出演 シアーシャ・ローナン  ジェームズ・マカヴォイ  キーラ・ナイトレイ  ロモーラ・ガライ  ヴァネッサ・レッドグレーブ  ブレンダ・ブレシン  ジュノー・テンプル  パトリック・ケネディ  ベネディクト・カンバーバッチ
原作 イアン・マキューアン
脚本 クリストファー・ハンプトン
撮影 シーマス・マッカーヴォイ
編集 ポール・トシル
音楽 ダリオ・マリアネッリ
ピアノ ジャン=イヴ・ティボーデ
2007年 イギリス・フランス作品 123分
アカデミー賞…作曲賞
ゴールデングローブ賞…作品・作曲賞
英国アカデミー賞…作品・プロダクションデザイン賞
エンパイア賞(雑誌)…作品(国内)・男優(ジェームズ・マカヴォイ)・女優(キーラ・ナイトレイ)賞
イブニング・スタンダード・ブリティッシュ・フィルム賞
アイリッシュ・フィルム・アンド・テレビジョン賞…助演女優(シアーシャ・ローナン)・撮影賞
ラスベガス映画批評家協会賞…若手女優賞(シアーシャ・ローナン)
ロンドン批評家協会映画賞…国内男優(ジェームズ・マカヴォイ)・国内助演女優(ヴァネッサ・レッドグレーブ)賞
フェニックス映画批評家協会賞…若手女優(シアーシャ・ローナン)・撮影・作曲賞
レンブラント賞…女優賞(キーラ・ナイトレイ)
サンディエゴ映画批評家協会賞…編集賞
サテライト賞…脚色賞
評価☆☆☆★


この映画を観た理由は、アカデミー賞をはじめとする賞レースの常連だったから。
賞をとる映画が、すべての人にとって必ず素晴らしいとは限らないが、ある程度の基準にはなるはずなので、ふだんはあまり見ないジャンルの文芸作だが、チェックだ。

まず少し意外に思ったのは、主役がキーラ・ナイトレイでも、ジェームズ・マカヴォイでもなく、キーラの妹を演じたシアーシャ・ローナンだったこと。
映画賞なら、たいてい助演候補になるだろうが、実質的には主役といっていい。

映画は、ブライオニー(ローナン)がタイプライターで戯曲(芝居)を書いているところから始まる。
タイプライターを打つ音が、音楽になる。これが、すごく興味深く、印象的。
作曲のダリオ・マリアネッリはアカデミー賞などで受賞したが、これは納得できる。
もちろん、タイプライターを使った音楽だけではなくて、他でも美しい旋律を作っている。

タイプライターの音楽とともに、ブライオニーが部屋の中をサッサッと歩き、まるで兵隊の行進かなにかのように、直角に曲がったりするイメージは、彼女の、少女期特有(ブライオニーは、このとき13歳)の張り詰めた危うさ、余裕のなさ、堅さ、のようなものを感じさせる。
経験の少ない頃に、自分の感受性を、周囲の出来事と、どう折り合いを付けていくか。それが、とても難しい時期って、あると思う。
その事件が起きたのは、ブライオニーが、そんな時期だったせいもあるだろう。

彼女が、姉セシリア(ナイトレイ)と使用人の息子ロビー(マカヴォイ)の、ただならない場面を見てしまう。1日のうちに2度も。
しかも、その間には、彼から姉への手紙の中身を盗み見てしまう。
さらに、その夜、決定的な事件が起きる。
あれだけ刺激的なことが続けば、ブライオニーの年頃だったら、彼女でなくてもヘンになってしまうかも。
あんな手紙を間違って封に入れるかよ、とか、1日のなかであれほど立て続けに事件を目撃するか、というのも、ちょっと思うが、現実は、ありえないことではない

ブライオニーは3人の女優によって演じられる。
もっとも素晴らしいのは13歳のブライオニーを演じたシアーシャ・ローナン。映画のカギとなる部分なので印象深いのは当然になるが、演技の的確さは文句のつけようがないくらい。
はやくも主演作品が控えていると、ちらりと噂に聞いたが、それも納得だ。

続いては、ロモーラ・ガライが18歳の時を演じる。ロモーラといえば、「エンジェル」の彼女は素晴らしく、個人的に昨年度の主演女優賞に推したくらいだが、本作では出番が少なめだったし、シアーシャと比べて顔がぽっちゃりしていたので、私には、ほんの少し違和感があった。達者なシアーシャのあとで、見どころも少ないので、ちょっと損な役だ。
最後には老年期で、ヴァネッサ・レッドグレーブが。大物をもってきましたね。ここは最後に、あっと驚くところで、ちょいと出てきてお得感たっぷりだ。

見ていないものを見た、と言うブライオニーを正面から捕らえ、「私の、この目で、見た」と言わせ、ロビーの母が「うそつき!うそつき!」と警察の車に向かって叫び続ける(ロビーの母を演じるのは、これも名女優ブレンダ・ブレシン。彼女も、ちょいと出なのだが、ここが見せ場になる。)、その声が、離れた屋敷から外の様子を見ているブライオニーの胸に突き刺さっていく。
この描写の巧さ。まるでベテラン監督の作品のようだが、本作の監督は、2005年の「プライドと偏見」が長編初監督となったジョー・ライト

同じ出来事を視点を変えて繰り返す手法も使っていて、なんだか先日観た「バンテージ・ポイント」を思わせた。

映像的に特筆したいのは、戦地での長回し撮影(撮影を切らずに、一度に長々と撮り続けること)。
ロビーたちがたどりついたのはダンケルク。この地からフランス・イギリス軍が撤退するわけだが、カメラはロビーたちの足取りを追いながら、ここにいる大勢の兵士の様子、海岸の様子をも撮っていく。
途中で、あ、この撮影は長いな、カットされてないぞ、と気づいて、そこから注意して観ていた。
長回しだから、どうだ、ということでもないが、撤退現場を延々と続けて映すことによって、永遠に続きそうな虚しさ、のようなものを出すことはできるのではないだろうか。

ラストでは、ブライオニーがおこなった罪滅ぼしが明かされる。彼女の「贖罪(しょくざい)」(イアン・マキューアンによる原作のタイトル)。
人間の悲しさ、あやまちがドラマティックに描かれた、文芸の香り高い一作だ。

3月に54歳の若さで急逝したアンソニー・ミンゲラ監督(「イングリッシュ・ペイシェント」〔1996年〕、「コールド マウンテン」〔2003年〕など)が、ラスト近く、テレビのインタビュアー役で登場。最初で最後の映画出演となった。




〔2008年4月20日(日) テアトルダイヤ〕


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