宮廷画家ゴヤは見た

GOYA'S GHOST
監督 ミロス・フォアマン
出演 ハビエル・バルデム  ナタリー・ポートマン  ステラン・スカルスガルド  ミシェル・ロンズデール  ホセ・ルイス・ゴメス  マベル・リベラ  ブランカ・ポルティージョ
脚本 ミロス・フォアマン  ジャン=クロード・カリエール
撮影 ハビエル・アギーレサロベ
編集 アダム・ブーム
音楽 ヴァルハン・バウアー
2006年作品 119分
評価☆☆☆★


ひさびさに、しっかりと見応えのある歴史ドラマを観たという感触。
なんだか実にミロス・フォアマン監督らしい、どっしり感。この監督には名作「アマデウス」(1984年)があるが、その時は音楽家のモーツァルト、今度は画家のゴヤという歴史上の有名人芸術家を配して描く人間ドラマだ。

映画“GOYA'S GHOST”(ゴヤの幽霊)を私が初めて知ったのは、ナタリー・ポートマン嬢のヌードシーンがあるというニュースからだったと思う。それは、ずいぶん以前のことのように思えるのも無理はなく、これは2006年の作品だったのだが、ようやく公開になった。

と思ったら「宮廷画家ゴヤは見た」ですと!? 映画の内容を考えれば、合っているタイトルだと思うが、ちょっとドラマの「家政婦は見た!」を思わせてしまうのが困る。

ゴヤの幽霊、という原題を訳すのは難しいが、その意味は、ナポレオンのスペイン侵攻による戦争の地獄絵図、ナタリー・ポートマン扮するイネスとハビエル・バルデム扮するロレンソ神父の運命、そうしたものがゴヤにとっては幽霊のように恐ろしく、悲しく、はかなく、心に尾を引いて残るものだった、ということかもしれない。
とくに彼が聴力を失った(油彩顔料のよる慢性中毒ともいわれる)のちは、なおのこと、戦争の残酷さなどの世相をも絵にする画家=観察者として、目で見るものへの感じ方は鋭くなっていったのではないだろうか。

それは彼の絵、とくに「黒い絵」といわれる14点の作品などを見ると感じることができる。
人間の心の暗い部分をえぐりだすかのようなインパクトがある、化け物じみた絵などもあり、人間のすることの不条理や恐ろしさを、観察者として絵に描いていった彼の心のうちには、とても興味がある。

監督ミロス・フォアマンも、少女イネスと神父ロレンソのドラマを、ゴヤの視点から見せる。

オープニングとエンドロールを中心に、ゴヤの絵をたくさん見ることができる。ゴヤが好きな人なら、それだけでもかなり楽しめるかも。
映画では、王妃を美人に描かずに、彼女の不興を買う場面もあって面白い。

映画では観察者の役割のゴヤが自分から動くのは、彼のモデルだったイネスが助けを求めてきたとき。
彼の絵の中で天使のごとき存在だった彼女のために行動するのだが、さて、その結末は。

主演の3人が素晴らしい。
ハビエル・バルデム、この人には、もはや言うことなしですね。そこにいるだけでも、すごい。最後の最後のシーンまで、すごい。
ただ、彼が演じたロレンソの最後の選択については、すんなりとは理解しにくい。15年間で変わった心情をセリフだけで示しているせいのような気がするが、それは2時間以内にまとめた脚本上、仕方がないところなのだろう。
フォアマン監督は、多くの無実の者を苦しめたスペインの異端審問を、いつか映画にしたかったそうで、異端審問を行った権力に対する疑問、批判、反発心を、ロレンソの態度を借りて表したかったのかもしれない。

ナタリー・ポートマン。彼女は2役だが、メイクの力も借りて、その落差がすごい大熱演。美しさもすごい。さすがは私の彼女である。(誰が彼女じゃー!)

ゴヤを演じたステラン・スカルスガルド。(私がこの俳優さんを認識したのは「ドッグヴィル」(2003年)でだが、最近は「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズで全身フジツボ化粧の「靴ひものビル」をやってます。)
上手い。渋くて、いい。まるで宮廷画家そのものです。(ゴヤ本人の自画像にも、わりと似ている。)

運命の4人(誰のことなのか、この感想文では秘密)が顔をそろえる最後の場面。
お互いが知らない関係もあり、知っている関係もある。
それぞれの境遇の極端な違いも際立ち、人生、ドラマチック!と盛り上がる。
ドラマの醍醐味に満足。

ゴヤの画集、欲しくなった。




〔2008年10月12日(日) スバル座〕


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