座頭市

脚本・監督 北野武
出演 ビートたけし  浅野忠信  大楠道代  ガダルカナル・タカ  橘大五郎  大家由祐子  柄本明  岸部一徳  石倉三郎  夏川結衣
撮影 柳島克己
音楽 鈴木慶一
衣装デザイン 黒澤和子
編集 北野武  太田義則
タップダンス指導 THE STRIPES
2003年作品 115分
ベネチア映画祭…監督賞受賞
トロント映画祭…ピープルズ・チョイス賞受賞
評価☆☆☆

北野武監督が「座頭市」をやる、しかもタップダンスがあるらしい、という情報が、まず入ってきた。
北野武監督といえば、なんとなく、ヤクザとか、やたら芸術っぽい映画、一般受けしない映画を作っているイメージがあって、ほとんど彼の映画は観てこなかった。観ていないのだから、ほんとにイメージで思うだけであって、じつは面白いのかもしれないのだが。

今回は、有名な時代劇の「座頭市」。予告編も何回か観た。ベネチア映画祭で好評で、監督賞などを取った。
一般受けしそうな映画に仕上がっているようだ。ならば、観てみようか。
そう思ったのである。

観ている間は、だいたいのところは楽しめた。
いろいろな批評を見ても皆が認めているところだが、たけしの殺陣(たて)の速さには驚いた。
速さのせいで、すごく殺陣が、かっこいいのである。まさにキャッチフレーズにあった「最強」の剣の達人というふうに見える。
目を使わないと、聴覚や気配を察知する勘などが研ぎ澄まされて、反応が速くなるのかもしれないから、あれで速すぎるということはないのだろうなあ、などとも思った。

たけしの「市」は、どうも人斬りが好きらしい。
斬れる機会があれば、徹底的に斬りまくる。悪人にも五分の魂、なんてことは微塵にも思っていないらしい。イカサマをやっただけで、一味皆殺しである。油断大敵、殺らなきゃ殺られる、先手必勝、ってことかもしれないが、娯楽時代劇だから許せるけれど、こいつは完全なアウトローである。
徹底的にやっつける、乾いた非情さを持つ一匹狼、なんてのは、マカロニ・ウエスタンあたりにも通じそうではないか。

殺陣のかっこよさ、の次に面白かったのは、リズムだ。
たとえば、畑でクワをふるう農民3人。その音がリズムを生み、それが音楽になってくる
ここで思い出したのが「ダンサー・イン・ザ・ダーク」である。
あの映画も、日常の生活の中での音が、だんだんと音楽になっていって、歌が始まった。
「ダンサー・イン・ザ・ダーク」の主人公セルマは失明寸前の状態だ。彼女は聞こえてくる音から想像を始めて、音楽にまでイマジネーションを広げたのだ。
市もセルマと同じではないか。目を閉じている。目の開いた常人とは違って、市が聞く音は、リズムを刻んで聞こえてくることが多かったのではなかろうか。

視力のない者にとっては、単なる音も音楽に聞こえてきやすい。
まあ、それは邪推であるが、映画として、全体にリズムを大事にしていたことは確かだろう。
その圧巻が、ラストのタップだ。農民の踊りがなぜタップダンスなのか、そんなことはどうでもいいのだ。大事なのは、映画が大団円を迎えたという祝祭のムードとエネルギーを出して、観客をも高揚した気分にさせて楽しませることだ。
盆踊りでなくてタップを踏んだら面白い、というアイデア。ただそれでいいのだ。
好きな人は好き、残念ながら嫌いな人は嫌いだろう。それは仕方がない。作るほうだって、観る者全員のことなんか考えていられない。

ただ、ちりばめられたギャグについては、テレビを観ているような程度の感覚に思えた。「剣術指南の頭ポカリ」は笑いをこらえるのに苦労するほど面白かったが、あとはテレビのバラエティのギャグのようだった。目をつぶった顔に目を描いたりするのも。
「お笑いのたけし」はテレビのイメージなのだ。それを映画で観るのは、なんとなく興醒めする。決してテレビのほうが次元が低いと言っているわけではないが、映画でテレビと同じようなことを観たくはないのだ。
外国の観客は、テレビのお笑いのたけしを知ってはいないだろうから、映画の中のギャグも純粋に面白いのだろう。また、お笑いのたけしを知っている日本人でも、問題なく楽しめる人は、いるだろう。
だが私は、そうではない。引っ掛かるのだ。それだけのこと。

北野監督にとってこの映画は、請け負い仕事のような面もあったらしい。頼まれて作ったということだ。100%自発的に作ったわけではないらしいのだ。
とすれば、すでに座頭市というイメージが出来あがっている作品と、監督がどこで折り合いをつけるのか、という問題もあったのではないか。すべてを自分の好きなようにやったわけではないのだろう、という気もする。

邦画では仕方がないことなのかもしれないが、また、これが私が邦画に興味をあまり持たない理由のひとつでもあるが、出演者に、テレビでお馴染みの俳優が多い。それが、どうしても映画ではなく、「テレビ」を思わせてしまうのだ。映画館にテレビを観に来たわけではないのだ。
そんなこともあって、今回、これは映画じゃなくて、この程度なら、テレビの単発ドラマでもいいんじゃないかなあ、なんていう、倣岸不遜(ごうがんふそん)な(=偉そうな)思いにも、今は、なっているのだった。

ちまたでは、市がじつは…だったのではないか(どころか、「だった」と断定しているものもある)、という話題をよく聞くが、私は、そんなことはないのではないか、と思っていた。が、だんだん、そうでもないのか、と考えなおしている。
(ネタばれしないように書くと、知らない人にはワケが分からないでしょうね。観た人は、「ネタばれページ」も読んでください。久々だな、ネタばれページ。)

ベネチア映画祭では監督賞を受賞したが、その他にも非公式では、観客賞(観客の投票による)、デジタルアワード賞(優れたデジタル技術を用いた映画に贈られる)、オープン2003特別賞(芸術分野で活躍した人に贈られる)の3賞を受賞している。
トロント映画祭のピープルズ・チョイス賞は、読んで字のごとく、観客が選んだ映画、ということだ。(この賞は、過去に「アメリ」も受賞している。)
見事に一般受けしている。
〔2003年9月15日(月) ワーナー・マイカル・シネマズ 大井〕



映画感想/書くのは私だ へ    ネタばれページ へ      トップページへ