スイミング・プール

SWIMMING POOL
監督 フランソワ・オゾン
出演 シャーロット・ランプリング  リュディヴィーヌ・サニエ  チャールズ・ダンス  ジャン=マリー・ラムール
脚本 フランソワ・オゾン  エマニュエル・ベルンハイム
撮影 ヨリック・ルソー
編集 モニカ・コールマン
音楽 フィリップ・ロンビ
2003年 フランス・イギリス作品 102分
ヨーロッパ映画賞…主演女優賞(シャーロット・ランプリング)受賞
評価☆☆☆★

ミステリー作家のサラ・モートン(シャーロット・ランプリング)は、中年のイギリス人女性。彼女がスランプに陥り、出版社の社長を訪ねる。サラと親密な関係にある社長は、彼が所有する南仏プロヴァンスの別荘で過ごすことを彼女に勧める。
イギリスとは違い、そこは陽光のきらめく別天地。
環境が変わって、新作のアイデアも浮かび、執筆を始めたサラ。
しかし、静かで快適なひとときも束の間、社長の娘だという若く奔放なフランス娘のジュリー(リュディヴィーヌ・サニエ)が思いがけず別荘にやってきたことから、サラの生活ペースは乱される。
男を連れ込んで騒いだり、気ままに裸でプールを泳ぐジュリーのことが、いちいち気になり、サラは心をざわつかせていく。
できれば週末に別荘に来ると言っていた出版社社長とも、連絡がつかない…。

「8人の女たち」でフランソワ・オゾン監督を知ってから、興味を持って「焼け石に水」「まぼろし」と、以前の彼の作品を観てきた。
今作を含めて4本を観たかぎりでは、私にとっては、かなり好みの監督だと言える。
いわゆる単純明快なタイプのエンタテインメントの多いハリウッド映画とは、まったく違って、洗練されていながら、皮肉なユーモアがあり、不思議な味わいが残る小品、これがオゾン監督の映画の特徴のように思える。ただ、「8人の女たち」はキャストが豪華だったので、小品というイメージとはちょっと違うかもしれないが。

今作は「まぼろし」に続いて、シャーロット・ランプリングがオゾン監督作品に登場。
「まぼろし」でも見事な演技を見せていた彼女だが、今度も期待どおり、魅せてくれる。
とくに素晴らしいのは、ひとり芝居の部分だ。
たとえば、彼女が別荘に着いてからの一連の行動、などという、なんでもない場面が、観ていて飽きないのだ。
ノートパソコンを机の上に置き、コードを取り出してコンセントを探す場面を演じるところを、興味深く見つめていられる俳優なんて、めったにいないのではないか。

シャーロット・ランプリングといえば、私には「愛の嵐」(1973年)での、軍服を着た上半身ヌードの姿が、強烈に印象にある。同感の方は多いと思う。その頃から彼女には、どこかミステリアスな雰囲気のある女優というイメージがあった。
その後、あまり彼女の映画は観ていなかったが、最近のオゾン監督の2作では、じつに注目すべき、上手い女優だといえる。
これがオゾン監督の作品ゆえなのか、そうではなく、どの監督の作品であっても魅力的なのかは分からないが。(他の監督の映画に出た最近のランプリングを、私は観ていないのだから。)

「8人の女たち」「焼け石に水」にも出演していて、オゾン監督お気に入りの女優リュディヴィーヌ・サニエがランプリングと好対照の役を演じている。
ランプリングが閉鎖的で冷淡な中年女性なのに対して、サニエは男関係にも積極的で明るく若い。
ひとつの別荘のなかで、正反対の性格の2人が顔を突き合わせることになる。

リュディヴィーヌ・サニエは、この映画で水着姿を惜しげもなく披露するので、ダイエットまでして体を絞ったという。そのかいあってか、彼女の見事な肢体が映画の中に刻まれた。
サニエの役は、ランプリング演じるサラが持たない部分の女性の要素を体現するキャラクターと思われるので、若い生命力に満ちた肉体をしっかりと表現できたのは大成功。
「8人の女たち」のときの子どもっぽいイメージとは全然違う、成熟した体つき。南仏の太陽の下でのビキニ姿(ときどき、もっと脱ぎ捨てているけど!)は魅惑的だ。

ある意図を持って、サラはジュリーのことを知りたがるようになるのだが、そのあたりの下心のいやらしさの見え方が、じつに生々しい。
冷淡なイメージの女性が、さりげなさそうな風を装って、急に親密にしてくるところを演じる巧さは、さすがにランプリングというべきか。
水と油のように溶け合わなかった2人が、だんだんと接近していくあたりから、物語は急展開を見せ始める。
そして、ひとつの事件が起きたとき、その間柄は、秘めやかに甘い共犯関係となるのだ

「スイミング・プール」のいちばんの見どころは、なんといってもサニエ嬢のまぶしい肢体…といいたいところだが、きめ細かな心理描写の冴えを見逃してはならない。
2つの個性がぶつかって、反発し合い、やがて引かれ合う。
そのスリリングさ。複雑さ。深さ。

事件が起きてからの展開は、まさしくミステリアスとなる。
観客に否応なく想像力を働かせてやろうと、オゾン監督は企む。
観る人によって、どう解釈するかは、さまざまなのではないだろうか。1度観ただけでは疑問が残り、できれば、また観てみたいと思う人も多いのではないか。(私もそうです。)
映画を観た者どうしで、それぞれの解釈を話し合ってみたい、と思わされる。

あっと驚き(まさしく、ランプリングには、ラスト近くで、あっ!と驚く美しい見せ場がある)、煙に巻かされる、その心地を味わおう。
心地がいいか心地が悪いか、その結果は、観る側に委ねられる。結末が曖昧(あいまい)な話を好まない人は、観ないほうがいいかもしれない。

(ネタばれページ〔下のほうに入口があります〕にて、私の解釈を説明してみましょう。今後、この映画を観る予定がある方は、読まないほうがいいのは言うまでもありません。余計な先入観を持って映画を観るのは、悲しいことですから。)

〔2004年5月29日(土) シャンテ シネ2〕


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