木工の豆知識
ご質問のある方は遠慮なくお問い合わせ下さい。
出来るだけやさしく説明したいと思います。
ひるねベンチ
家具を上手に注文する方法(作り手の微妙な心理を知ろう!)2001/12/26
文責:矢澤美子

「この雑誌の、このテーブル(矢澤の作品ではない)がとっても気に入ってるんです。これと同じ物を作ってくださいませんか。」とお客様。遠くからわざわざ訪ねてみえて、「矢澤さんのお噂はずっと聞いていました。いつか是非うちの家具も作って欲しいと思っていました。」と、賛辞をいっぱいいただき、とてもにこやかに、丁寧に雑誌を取り出しての発言でした。

さて、このお客様の発言に「あっ、それちょっとまずいんじゃない?」と感じられた方は、ものを作ったことのある方か、人の心理がよく分かる鋭い方ですね。「この発 言のどこが悪いの?」と思われる方は普通です。

ものを作る人の心理はとてもデリケートです。作品には自分の思想、センス、技術、全てを投影させるわけですから、作品は自分そのものです。「ここの面の丸みの取り方がちょっといやなんです。わたしは、もっと、角ばった感じが好きです 。」なんてことをいわれると、顔はにこやかに、言葉は「そうですか」と言いながら、内心グサッと傷つくのが作り手です。「あなたの、その唇の分厚いところが好みではありません 」と言われるくらいの衝撃です。

ですから、最初のお客様の発言に対しては、大抵の作り手の方は「そんなにそのテーブルが気に入っているんだったら、それを作った人に頼んだらぁ?」って、内心ふてくされて思うんです。それは、技術的には可能な仕事かも知れません。でも自分に頼むなら、自分のスタイルを受け入れた上で頼んで欲しい・・・と作り手は思うのです。ピカソにルノアールが好きだから、あんな絵を描いて欲しいと言うようなものです。ピカソはきっとルノアールのような絵を描く技術も持っているでしょうが、とても引き受けるとは思えません。

ですから、自分の好みにあったスタイルの作家を捜し出して、その人に、その人のスタイルの範囲で希望を出して作ってもらうのが一番いい結果を生み、いい物ができあ がると思います。(テーブルの大きさの寸法とか、引き出しの数とかの希望は出し てもらっても、ぜんぜん構いません。)

余談ですが、ある作り手の所に、ある人が矢澤のパンフレットを持っていって、「この格子の長椅子とそっくり同じ物をつくって欲しい」と注文し、その作り手は誠心誠意時間をかけ、細部まで詳細に研究して、そっくりコピーを作ったという話を伝え聞きました。それは、九州北部のどこかのガソリンスタンドに置いてあるそうですが、私たちは頼む方も頼む方でなら、作る方も作る方だと、驚いています。また、うちを巣立った弟子の所に、やはりうちのパンフレットを持ち込んで、「これと同じ物をつくってほしい」と注文する方もいらっしゃいます。その弟子が断ったところ、「金を出すのになぜ作ってくれないんだ」と怒ったそうです。

うちを巣立った弟子たちは矢澤の分身ではありません。やはり独自の感覚、スタイルを持っています。それを尊重しない製作の依頼は、やはり、その人を傷つけることに なります。

(第17回)直接木工と関係ない質問ですが、刃物を身近に使われる金太郎さんにお聞きします。包丁の研ぎ方を教えて下さい。(2001年5月16日)

刃物を研ぐには、砥石(といし)を使いますが、日本では水をつけて研ぐ水砥石、欧米ではミシンオイルのようなものをつけて研ぐオイルストーンが一般的です。水砥石、単に砥石と言いますが、DIYショップで売っています。料理好きな方なら使いこなしたいですね。包丁がよく切れると、味まで変わります。

砥石は粒子の荒さのより、荒砥(あらと)、中砥(なかと)、仕上げ砥の3種類があって、取りあえず中砥だけでも欲しいですね。DIYショップで包丁用と表示されているものは大体中砥程度です。刃こぼれしているときは荒砥がいるでしょう。刺身包丁のようにうんと切れないとダメなものは仕上げ砥が必要です。

砥石で包丁を研ぐ場合の注意は

1.刃先まで研ぐ
2.怪我をしない
この2つです。

刃先まで研ぐ、というのは当たり前なんですが、研いでも刃が切れないという場合は、刃の先端まで研げていないことが原因です。中砥で刃先まで研げた場合は「刃返り」といって、研いでる面の反対側に”返り”(指先で触った時ざらつく感じ)が出ます。そうなったら、今度は刃返りが無くなるまで、両面を交互に軽く研ぎます。

研ぐ方法ですが、中砥の場合水をよく吸いますので、一晩水に漬けてから、下に雑巾などを一枚敷いて、がたつかないようにして研いで下さい。くれぐれも怪我の無いようにお願いします。また、普通の包丁を仕上げ砥で研ぐと、切れすぎて危険なことがあります。程々に研ぐのがいいでしょう。

尚、白い磁器(瀬戸物)の茶碗やお皿などの裏側(釉薬の付いていない生地部分)で刃を研ぐことが出来ます。きちんとは研げませんが、間に合わせにはなりますね。セラミック砥石というのがあるくらいですから、理屈には叶っています。

(第16回)指物って何ですか?(2001年4月20日)

木工を大きく分けると

1.挽物(ひきもの)・・丸いお盆など、木工ロクロ(旋盤)を使って作った物です。
2.刳り物(くりもの)・・刳盆など、一枚の厚い板をノミなどで掘って作った物です。
3.曲げ物(まげもの)・・曲げわっぱ(弁当箱)など、薄い桧板などを曲げて作った物             です。             
4.指物(さしもの)・・箪笥など、板と板を組み合わせて作った物全般を指します。
5.この他、木を紙のように薄く削り、裂き、竹を編むように編んだ物などいろいろあります

指物の指す(さす)は「差す」と同義語で、物差しで寸法を測りながら、箱などを作ることを意味します。指物とはそのようにして作られた物となります。「ゆびもの」とか「しぶつ」とか読む人がいて、最近では死語に近くなっているかも。。。

(第15回)矢澤のお椀の特徴と、ご使用方法(2001年3月10日)

お椀が底をつきましたので、お椀プレゼントは廃止させていただきます。
下記文章は、良いお椀の選び方の参考になると思い、残させていただきます。(2004.5.12)

ケヤキ椀
(文責:矢澤美子)

最近は、家具作りに追われて、お椀に係わっている時間がなくなってしまいました。だから、もう家具に専念して、お椀は廃番にしようということになったんです!!でもまだお椀の木地が、段ボール箱一つ残っているので、それをプレゼントとして使って、お椀屋さんからは足を洗っちゃいます!!

でも、廃番にするからといって、矢澤のお椀は決して、質の低いものではないんですよ。むしろ、質の高い、魅力あるお椀だと誇りに思ってます。だから、皆さん、ホームページのカウンター・キリバンプレゼントや、「らくがき帳」のスロットマシンのお椀は、この際だから、積極的に取りに行った方が得ですよ!!あとから欲しいって言われても、在庫が無くなったら、もうおしまい。もう作りませぇ〜ん。

矢澤のお椀がどう良いかっていうお話と、使い方を説明しますね!!

木のお椀を普段に使っていらっしゃる方は、案外多くないようですね。メラミン樹脂などのお椀を使っていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。木のお椀の良さは、まず、軽くて、中に熱いものを入れても熱が伝わらないので、手に熱くないんです。そして、矢澤のお椀は、自然の木と自然の塗料である漆を使っていますので、体に悪いものがありません。 椀の木取り

矢澤のお椀は、市販の「漆塗り」と表示されるお椀と較べると、10倍くらい高いですよね。「たっか〜い!!どうしてぇ〜?」ってよく聞かれます。それは、まず、欅という高価な材料を使っているせいです。しかも、材を縦使いしています。縦使いというのは、絵で分かるように、材が太くないと取れないから高いのです。そうしてまで、なぜ縦使いの材を使うかというと、上下に堅い木口面が来るので、高台がすり減ったり、口が欠けたりすることがなく、長年の使用に耐えるからです。それに較べると、市販の安いお椀は、横使いをしているものが多く、細い木から取り、白太に近いため、弱く、長年の使用に耐えません。椀を選ぶ際は、横使いか縦使いか調べ、耐久性の点から横使いは避けるべきです。縦使いの方が10倍以上長く使えます。また東南アジアからの輸入品の椀は縦使いが多いようですが、目の粗い、欅の模擬材を使っています。

市販のお椀の「漆塗り」という表示は、全く信用できないと思っていいですよ!!カシューという合成塗料を、合成漆などと紛らわしい名をつけ、「漆塗り」という表示を使っている業者もいますし、ポリウレタンなどの塗料で塗って、最後の一拭きだけ漆を使って「漆塗り」という表示をする業者も普通にいます。品質表示は一番上の塗膜を表示しています。その下はなんでも構わないのです。その点、矢澤のお椀は、バカみたく最初から生漆を摺り込んでいきます。

漆塗りのお椀を使うって、なんだか、気を使っておっくうだと思う方も多いようですね。でも、ちっともそんなことないんですよ。スポンジに洗剤をつけて普通に洗い、布巾で拭き取って下さい、それだけです。ただ、たわしでゴシゴシ洗ったり、食器洗い機に入れたり、乾燥機に入れたりするのは、ちょっと可哀想ですね。

拭き漆したお椀は、長年使うと、漆が摩耗して、木地が見えるようになります。そうなったら、漆を塗り直しできるんです。全く生まれ変わりますよ!!自然の素材を使ったものは、何度でも生き返り、長い間使うことが出来るんです。

さあ、こんな素敵な矢澤のお椀、ゲットしてみませんか?どんどんプレゼントしちゃいますからね!!

(第14回)骨董屋で欅の箪笥と座卓を買おうと思っていますが、漆に塗り直すことができますか?(2001年2月24日)

条件次第です。

1.まず無垢材であること、合板製のものは削り直しが出来ませんので、無理です。

2.次に現在の塗装が剥がし易いかどうかです。古い家具は殆どシェラックニス塗りのものですので、アルコールで簡単に落とせますが、比較的新しいものですとウレタン塗装のものがあります。ウレタン塗装が汚くなったものは、削り落とすしかなく、それがまた大変で、漆での再生はまず出来ないといった方がよいでしょう。シェラック塗りのものなら、漆に塗り替えることで、驚くほど美しく再生されます。

よく「家の物置に、おじいちゃんが大切にしていたテーブルがあるのですが」と相談されることがあります。表面を削り直し、拭き漆をして見違えるほど美しくなったテーブルに感謝されることがあります。嬉しいですね、お孫さんの驚く顔を見るのは。

(第13回)日本伝統工芸展に行きました。陶芸はみんな同じ大きさの大きなお皿ばっかり、木工は似たような、ちっちゃな箱ばっかしでした。染色は着物ばっかしで、どうしてあんな風にみんな同じになっちゃうんですか?。ちょっと異様な感じですよ。(2001年1月23日)

日本伝統工芸展といえば日本の伝統工芸の最高位に位置し、一生かかっても一度も入選出来ない工芸作家も多くいるほど難しい公募展です。4回入選すると正会員になれ、そのステータスとプライドにより性格が変わってしまう作家がいるほどです。

で、何故伝統工芸展の作品が皆同じようでつまらないかといいますと、新たなる創造性を目的としていないからです。組織のトップに皇室があって、日本のかっての伝統文化を守ることが目的です。文字通り伝統工芸の美を追究するところであって、用と美を追究する常識的な「工芸展」ではないのです。

従って、過去に見たこともない新しいデザインの作品を作ると、途端に審査の目が厳しくなります。木工の場合は、短冊箱、色紙箱というような、大昔の宮中で使った物でないと入選は難しいでしょう。「パソコンデスク」なんて作っても駄目なんです、いくらクリエーティブであっても。それと、非常に密度の高い作品でないと入選しません。その結果、小さな作品になってしまうのです。大きな作品で緻密な物を作るのは大変ですから・・・。

陶芸の場合は緻密さが木工ほどは要求されません。むしろ大きて、おおらかな作品の方が入選しやすいと思います。どのくらいの大きさがいいか、色々比較尽くされた結果、あそこに並んでいたような大きさの皿に落ち着いたのでしょう。染織が着物だけなのは今までの説明で納得でしょう。

創造性、ではなく伝統の美、というただ一点に絞った審査のため、同じような作品が並んでしまうのです。なお誤解が無いよう補足しますと、伝統工芸展でも、創造性は声高く求められています、ただ非常に狭い範囲でのみ許された創造性ですので、第三者から見えれば、どこがそんなに違うの、ということになるかも知れませんね.

(第12回)鉋を使いこなすのに10年かかると聞きましたが 本当ですか?何故そんなに難しいのですか?(2001年1月15日)

木工の技術を評価する上で、鉋掛けが引き合いに出されたのは日本でのこと、外国ではそれほど重視されません。

日本で鉋掛けが重視された理由

日本では昔から家の柱や建具類を、素木で使うため、鉋で削っただけで美しい木目と光沢を出すことが重要視されました。 美しく表面を仕上げられる人が、腕の良い職人と見なされました。 外国では柱やドアーは、鉋掛けの後でサンディング(ペーパー掛け)して塗装をするため、鉋掛けはそれほど重要ではありません。 経済面でも日本では、杉板を1坪分削っていくら、という時代があったため、鉋掛けの上手い下手は収入的に大きな問題でした。

日本の鉋が難しい理由

1.日本の鉋は、本体(台)が木で作られているため、温湿度変化で反りや捻れが出て、毎日使うたびに台を削って微調整が必要。メンテナンスが難しい。外国製は鉄で出来ているため、狂いが殆どなくメンテが簡単。(反面、微妙な調整は難しい)

2.鉋を研ぐ砥石が、日本は柔らかい水砥石なため減りが早く、毎日砥石の面の狂いを修正(面直し)しなければならない。欧米では硬いオイルストーンを使うため、砥面が狂いにくい。(反面、狂い出すと、硬い分修正は大変)

素人の多くは上記のような鉋の台の調整、砥石の面直しの重要性を知らないようです。単に一生懸命刃を研いでも、砥石の面が狂っていては真っ直ぐな正しい刃が付きません。鉋の台は狂いやすく、狂ったままで使おうとすると、刃を沢山出さないと、刃が材料に当たらず、その結果粗雑な削りになってしまいます。あと、逆目を止める方法など、難しさはありますが、欧米の鉋にも共通する難しさです。確かに、日本の鉋を使いこなすのには、いくつかの難しいことを習得する必要があり、他の道具より付き合いが難しいといえます。

現在の状況

現在は「超仕上鉋盤」という手鉋と同じ原理で削る機械があり、一般の大工や建具職人では鉋掛けの出番は殆どなくなりましたが、家具製作の分野では機械にかからない大きなテーブルなどの鉋掛けに手鉋が使われるため、一定水準の鉋技術は依然として必要です。ただ鉋の後にサンディングをするので、それほど神秘的な技術は必要ありません。

昔は技術は盗め。なんていって教えてくれませんでしたが、今はそんな時代ではありません。本もたくさん出ていますし、聞けば教えてくれる職人も昔よりたくさんいるでしょう。やる気が沢山ある人なら1年でマスターできます。やる気が普通の人だと2年かな・・

(余談:教えたくない職人の心理・・・技術のコツを相手に話したとき、驚いたような真剣な眼差しが返ってくればいいのですが、「・・・・」とか「????」とかで、期待した反応がないとガッカリなものなのです。で、技術は盗め、となる。盗むには、盗もうとするレベルに近い知識と技術がなければ、見ても見えず、盗むに盗めませんね。というわけで、昔ながらの「盗む方法」の環境下では、鉋掛けの基礎をマスターするのに10年かかってしまうかも知れません。)
(第11回)家の増築のため、庭の桜の木を泣く泣く切ることになりましたが、家具に生まれ変わらせることはできますか?(2000年12月25日)

木の太さにもよりますが、テーブルや、座卓、飾り棚、椅子、盆、など、いろいろな物に生まれ変われます。一枚板でなくても、何枚かを矧(は)ぎ合わせて広い板に出来ます。

ただ、山に生えている木と違って、家の周囲の木には次のような問題点があります。

1.切り倒しが難しい。周囲の屋根などに触れることなく、正確に定めた方向に木を切り倒すことは熟練した山師でないと出来ない。山師が居ない場合、クレーン車で木を吊りながら倒すとなると費用が相当かかる。もっとも今回はどのみち、桜の木を切ることは決まっていますので、その費用は考慮済みでしょう。

2.木の内部に釘や針金、石などが入り込んでいる場合が多く、製材時に帯鋸の刃を破損することがある。その為、もし釘などにより刃を破損した場合は、費用を負担することを約束させられることがあります(1万円程度)。製材賃そのものは一本5000円程度でしょう。 とにかく、木に釘を打ったり、針金を巻いたりしないよう気をつけましょう。又枝分かれした二股の部分や腐った空洞部分に石を置いたりすることは止めましょう。釘や石を内部に抱き込んで木が成長するため、表からは分からず、製材したときや、製作途中に道具の刃を痛めて、初めて分かるということが多いです。時には戦争中の鉄砲玉が出てくることもあるそうですが、これなどは戦後生まれの人には何の責任もないですね。

3.人家の周囲の木は防風林的要素が強く、一方方向からの風の力を受けていることがあり、それが木の内部にストレス(内部応力)を残すことが多々あります。そうしたストレスを抱え込んだ木は、製材し、板になったあともストレスを完全には解放することがなく、乾燥して家具になった後も、悲しいかな、生涯ストレスをかかえ込み、室内の湿度変化により、生前受けたストレスを呪うが如く反ったりねじれたり、苦しそうな動きをします。ですから、作る側は、精神分析医の如く、木の内面を丁寧に診断した上で製作をしないと、思いがけないトラブルに遭遇することになります。山の木を使っての仕事より気を使います。

そういう訳で、家の周りに生えている木を家具に生まれ変わらせるには、様々なハードルがありますので、その木に対する思い出を形にするという、強い情熱がいるかもしれません。

伐る時期や伐った後の処置は前項、第7回、第9回を参考にして下さい。

(第10回)日本と外国の木工は、どの程度違うのですか?(2000年12月14日)

木というものの基本的性質が、世界中ほとんど変わらないため、その加工方法、技術というものは基本的にはそんなに違いません。

あたかも人間の生活の違いのようなものといえます。たとえは悪いですが、箸とフォークの違いはあっても、上から入れて、下から出すという原理は変わらないようなものです。

建築の方では、地震がある国と無い国ではだいぶ素材や構造が違うようですが、 木工品である家具の場合では、基本は、ほとんど同じと言っていいと思います。

よく外国の鋸は押して切る、鉋も押して削るから、外国では日本と全く逆の事をやってるように思う人が、いるかも知れませんが、 「そんな奴いるか! m(_ _)m 」 鑿(ノミ)は日本と同じように上から叩きますし、ほとんどの事は同じです。

押して切る西洋鋸のいい点は:

1.手の握力だけで引っ張るのではなく、体重をかけて押せるので、疲れず作業性がよい。
2.まっすぐ押さないと、鋸が曲がって入っていかないので、必然的にまっすぐ挽けるようになる。
3.木屑が下に落ちるため、墨線が木屑で見えなくなる、ということがない。

一方欠点は:

1.鋸身が曲がらないように厚く作るため、鉄を沢山消費する。(昔は鉄が貴重だった)
2.鋸身が厚いため、繊細な仕事には不向き。私の作品でペーパージョイント (紙のような厚さの組み手・英語版オリジナル作品参照)というのがありますが、 これは日本の、身の薄い鋸があって初めて可能になった技術です。 (尚、欧米の鋸にも、糸鋸のように、刃を引っ張って取り付けるタイプの鋸が大小色々あり、 それらは刃が薄く作られています。また背金の付いた日本の胴付き鋸タイプのものもあります。)

日本の鋸のいい点は、上記の逆になりますが:

1.欧米の鋸のような握りハンドルが無く、柄が棒状なので、 水平方向に切るときなど、手首をひねらずに済むなど、難しい体勢での作業がしやすい。
2.厚みの薄い鋸に作れるため、精密な鋸挽きが出来る。また曲線挽きもある程度可能。

欠点は:

1.無理矢理、力任せに挽くことが出来るため、初心者では挽き曲がりが発生しやすい。
2.身が薄い割に硬度が高いため、寒い時期に割れたり、刃こぼれが起きやすい。
3.挽いたとき、鋸屑が板の上に残るため、墨線が鋸屑で見えにくくなり、 息で鋸屑を吹き飛ばしながら挽いたりすると、余計なことで息切れがします。(@_@)
(第9回)実家の裏山のセンダンの木を切ることになりました。 記念にテーブルにしたと思っています。乾燥方法を教えてください。 (2000年12月10日)

切る時期については(第7回)を参照。丸太のままにしておきますと、干割れが入りますので、 立木を切ったら直ぐ製材所に頼んで希望の厚さ(仕上がりの厚さ+1cm)に製材します。

芯の部分は将来割れたり反ったりしますので、天板とはせず、芯を避けて脚用に製材します。

製材が終わったら、雨の当たらない、風通しの良い場所に、桟積みします。

最初にブロックを置き、その上に桟を置きながら、板を積んでいきます。板と板の間に挟む桟は3〜4.5cm角の杉材が良いでしょう。

積み終わったら、干割れ防止のために、木工用の白ボンドを木口に塗ります。水で薄めずに原液のまま、木地が見えなくなる位たっぷりと塗ってください。

尚、子供が材料の上に乗って遊んでも安全なように、配慮する義務があります。 楽しい事を考えてると、つい安全に対し不注意になりますのでその点よろしく。

(第8回)道具が好きで、よくDIYショップに行きます。 「本職用」というラベルが貼ってある道具がありますが信じていいですか? (2000年12月3日)

一般に、本職用の道具にはそういうラベルは貼ってありません。 「本職用」とあればそれは素人用です。本物には自分を目立たせるラベルは必要ないのです。

本職用の道具の特徴は、(1)刃物が研いでない。従って買ってすぐには使えない。(2)ノミの柄など木部に透明塗料が塗られていない。 (3)見た感じが渋い。ぴかぴかしていない。(4)値段が高い。

まだあるでしょうが、まずはDIYショップでなく、老舗の道具屋さんに行って道具のことを聞いてください。

ただし、道具屋のおやじは大体プライドが高いのでご注意あれ。素人にはなかなか道具の話をしてくれません。

「こいつ少しはわかるな」と思われれば、その品定め程度に応じて、奥の方から道具を出して見せてくれます。 (道具屋さんはきれいにディスプレイなどしてない!)

なぜ最初からすんなり道具を見せないか、道具屋さんの微妙な心理分かりますか?

まずはその辺を探るために、道具屋さんに行ってみましょう。

あ、買うつもりがなくても、3万円ぐらいは懐に入れて行ってくださいね。授業料です。

(第7回)庭の柿の木の枝を少し切ることになりました。 切った枝を利用したいのですが、切る時期というのがありますか? (2000年11月25日)

はい。木が眠っている、正月前後に切ってください。

木が根から水を吸い上げる期間中(春から秋まで)に木を切ると、 木の白太部分に養分が蓄えられたままの状態になるますので、虫が付きます。

5月頃切ると、切ったその日にすぐ虫が入ることがあります。 体長4〜5mmの小さな焦げ茶色の木喰い虫が、お尻だけ出して、 必死に木の中に潜り込もうとしているのが見られるかも知れません。

虫が付かないようにするには、木に養分が残っていない、厳冬期に切るのが最良です。 どうしても春や夏に切るときは、切った材料をすぐ水に浸けてアクを抜いてください(1ヶ月間位)。 小さい場合は1時間ぐらい煮てもいいです。茶色いアクが出なくなればOKです。

また木の皮はすぐ剥いでください。皮のすぐ内側が一番虫の好きなところですので、皮は無い方が安全です。

それから、柿木は折れやすいので、木に登るときは気をつけてください。あっ、遅かったですか!


(第6回)椅子やテーブルの高さの決め方を教えてください。(2000年11月20日)

事務用の机や椅子は、人間工学とかで、高さが決められているようですが、 家庭で使う椅子やテーブルの高さは、使う人が心地よい、と感じれば、その高さが正解です。 たとえ学者が決めた数値と合致しなくても、そんなものは無視していいのです。

椅子の座面の高さは、テーブル用の椅子か、或いは安楽椅子のように単独で座る椅子か、によって大きく違ってきます。

単独で使う椅子では、座面の高さは使う人の好みでいいのですが、 テーブル用の椅子の場合は、使うテーブルの高さを一人一人が変えられないため、 又大人の座高が身長の高い低いに拘わらず、ほぼ一定であるということから、 椅子の高さも自ずと一つの数値に決まってしまいます。 (一般に椅子の座面高さ=テーブル高さ−29cmです) 従って、その椅子の座面が高いと感じる場合には、子供用椅子のように足置きを作るしか解決策はありません。

椅子の座面の高さは国によってかなり違います。 その国民の平均身長の違いもありますが、 外国の場合、靴を履いて使うこともその原因です。 アンティーク・チェアーなど椅子をデパートで買う場合は、靴を脱いで座ってみる必要があります。

テーブルの高さには決まりがありませんが、高くなるほどフォーマルな感じが強くなります。 アットホームな感じを出すときは、低めのテーブル、ということになります。 日本では一般に高さは60〜73cmです。

尚、椅子やテーブルの高さは、将来必要があれば、継ぎ足して高くしたり、短く切って低くしたり、改造が可能です。 ですからあまり先のことを考えず、今自分たちにとって快適な高さの椅子やテーブルを求められることをお勧めします。

参考までに私の作品の標準高さを書いてみます。

組立式ダイニングテーブル 70cm
桧テーブル         60cm
片肘チェアー(座面高さ)  41cm
おやじの椅子        35cm
あぐら椅子         25cm



(第5回)李朝の家具が、本物かどうか見分けるポイントを教えてください。(2000年11月20日)

李朝とは、1392年に李成桂が建国し、1910年まで続いた朝鮮の王朝のことです。90年以上前の物ですので、偽物を見抜くには、90年以上も実際に使われた痕跡が感じられるかどうか、がポイントとなります。  傷の入った古材を使ったり、作った物を泥の中に長期間沈めて古味を付けたりして、アンティークに見せかける業者も多いので、表面的な見方では騙されます。

チェックポイントは次のようなことがあれば、最近作った偽物と思われます。

引出しの中を見る

1.内部に歴史を感じさせる傷や汚れがない
2.内部の板厚がきれいに揃っている
3.茶色の着色がしてあるが、古びた味がない
4.機械釘の小さな頭が見える

扉の中を見る

1.歴史を感じさせる傷や、汚れがない
2.紙が貼ってあるときは、一部剥がしてみると機械の跡がある。
3.カシュウ塗料独特の石油系の臭いが残っている。(偽物は漆でなく、安価なカシュー塗料を使っている。)
4.ホルマリン臭のある物は合板を使っている証拠。

金具を見る

1.薄っぺらな板金で作られている。
2.雑な鋳物の金具を使っている
3.黒の塗装がしてあり古びた味がない

値段を見る

1.手頃な値が付いている。

最後は、90年以上の歴史の重みを感じられるかどうかです。騙された場合は授業料と思いましょう。


(第4回)桐箪笥が燃えないって本当ですか?(2000年11月11日)

いえ、火災に合えば、やっぱり燃えてしまいます。

桐は熱伝導率が小さいので、燃え広がりにくいことは事実です。 特に厚みが5cm位あると、普通の焚き火程度では表面から2cm位までが焦げるだけで、 それ以上はすぐには燃え広がりません。少しぐらい加熱されても、普通の木のように、 引火性のガスを出すことが無いのです。

ですから火災の初期のうちに運び出せば、中の着物は助かるかも知れません。 運び出すという点では、桐は軽いので好都合です。 その辺が桐箪笥が昔はやった理由でしょう。

今日では、火事になったとき、箪笥を運び出すことはまず考えないでしょうから、桐箪笥の価値は昔ほどはないでしょう。

昔の箪笥は、棹(さお)を通す金具が付いていますので、火事に限らず、 嫁入りの時でも棹に吊り下げ、近所の人に見せびらかしたのでしょう。 箪笥は、昔は一棹二棹と数えました。


(第3回)良い箪笥は引き出しを閉めたら、他の引き出しが出てくると聞きましたが、本当ですか。(2000年11月4日)

それは構造の問題で、作りの良し悪しとはあまり関係ありません。箪笥を板で作るか、角材の枠構造で作るかによって、そういう現象が出るか出ないか決まります。

日本の箪笥は昔は柔らかい桐で作られていましたので、枠構造では引き出しを受ける桟が直ぐ擦り減るため、 引き出しを底全体で受けられるように、板構造で作られています。

その為、箪笥全体が密閉性の強い性質を持ち、 一つの引き出しを閉めると、空気で押されて、他の引き出しが飛び出てきます。 このタイプの引き出しは、逆に引き出しを引く時、真空ポンプを引く時のように、引出しが重いという欠点があります。

西洋の家具は強度のある堅木で作られているため、枠構造に耐えられます。 枠構造の場合は枠とパネル(鏡板:かがみいた)の間に隙間があるため、 引き出しを閉めても空気が箪笥の内部全体に拡散し、他の引き出しが飛び出てくることはありません。 また引き出しを引くときも軽く引けます。これは良い悪いの問題ではなく構造的な違いです。

ただ引き出しを閉めると他の引き出しが飛び出す、というのは使う上では面倒なものです。 そこで私の箪笥の場合は、板建てのものでも、他の引き出しが飛び出てこないよう、 引き出しの奥の板(先板:さきいた、といいます)の上部を欠き取り、引き出しを閉めたとき、 空気を手前に逃がすことで、他の引き出しが飛び出さない工夫をしています。

この方法は引き出しを引き出すときに、軽く引ける、という利点も得られます。


(第2回)転勤族です。以前住んでいたところで民芸家具の箪笥を買いましたが、 梅雨になると引き出しが開きにくくなって困ります、どうしたものでしょう?(2000年10月28日)

以前住んでいたところ(その箪笥が作られた場所)に比べ、現在のお住まいは年間平均湿度が高いのでしょう。 特に梅雨が長い場合には、第1回でご説明しましたように、 引出しの側板や前板が膨らんで開けにくくなることが考えられます。お近くで家具を作っている人が居ましたら、 簡単に削って直してくれるとおもいます。

昔気質の職人の作る箪笥は、非常に精密に、隙間無く、ぴったりと作られていることが多いです。 ぴったりと作ることが職人たる誇りだったわけですが、それが通用したのは、作る場所と、使う場所が同じだった昔の話で、 今日のように、日本中或いは世界中のどこで使われるか分からない時代には、 大きな湿度変化による寸法の動きに対応できるような作りでなくてなくてはなりません。 つまり遊びを大きくとる必要があるのです。これは昔の職人にとってはかなり辛いやり方です。引き出しの場合は 、遊び(隙間)を大きくして、つまり引き出しがガタガタするように作れ、と言うことですから。 この方法により必然的にできる隙間を隠すため、私の作品の引出し前板は、原則として被せ型となっています。

昔の船箪笥などは、船が沈没した際、引き出しの前板が海水で濡れて膨らみ、密閉されて中の書類などの紛失が防げた、或いは、 箪笥の中に空気が閉じこめられたため、重い金具を使ってあるにもかかわらず、 箪笥が海に沈まず、海上をぷかぷか浮いていた、という様な話は残っています。この場合は重い金具のある前板が下になりますので、 上になる背板側は空気が漏れないように作る必要がありました。


(第1回)木工の難しさは何ですか?(2000年10月21日)

木工の難しいところは、木という素材が、他の素材と違って、湿度変化による伸縮の度合いが、縦方向(繊維方向)と幅方向とで、大きく異なる点にあります。

金属やプラスチックは、湿度変化では一般に形状が変化しません。粘土、紙、布、皮などは湿度で大きく変化しますが、変化の方向性は木材に比べれば無視できる程度です。竹という素材は木に似て伸縮の方向性が強いのですが、細く割って使うことで、幅方向の伸縮問題を回避しています。

木材は、縦方向(木の繊維方向)は全くと言っていいほど伸縮しません。従って長さが変わっては困る柱などに利用できます。

幅方向は、日本の気候の元では、よく乾燥した板でも白木の状態ですと年間およそ1%、寸法が変化します。1mの幅の材ですと年間1cm前後幅が変化する可能性があるということです。 具体的にどのような問題が起こるかと言いますと、柱と壁の間に隙間が発生するとか、 箱の底板や天板が乾燥により割れたりすることがあります。サイコロのような四角いものを作るとき、 6枚の板をどのように組み合わせても、隣り合う板の伸縮方向を全て合わせることは不可能なのです。 6面の内2面は合わなくなります。

第二の問題は、木は反りやすいという点にあります。木は丸太の状態で、中心部が最も吸水性が小さく、皮の付いている周辺部(白太)に向かうにつれて、水分の吸収率が大きくなるという変わった性質を持っています。このため板にした場合、吸収率の大きい白太側が湿度が低くなると凹み、逆に高くなると出っ張ってきます。この性質も大変厄介な問題なのです。

薄板を縦横交互に張り合わせた合板は、この伸縮、反り問題を一応解決しています。その為、家具店、デパートに並ぶ家具のほぼ100%が、巧みな方法で、合板とは分かりにくいように合板を使っています。なぜ、騙すように使わなければならないかと言うことですが、合板は薄板の張り合わせのため、やがて剥がれる運命にあり、長期的耐久性がありません。そのことを作る側も売る側も買う側もよく知っているためです。

木工を勉強すると言うことは、木の性質、癖を知ることに尽きます。お転婆娘とうまくつき合っていく術を我々は日夜研究しているのです。