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03.06.2001 (Tue):『movin' on up』

2月26日の引越ドキュメント。



山積みの荷物を速攻で運ぶ
優秀な日通スタッフ。
僕は突っ立って見てるだけ。





2tトラックに積み込み完了
大倉山へととびたつ。
さらばモトスミ。またね!





新居に着いて一段落したら
お隣にいってご挨拶。
つまらないものですが、どうぞ。


03.08.2001 (Thu):『イメージ・ファイト』

■‥‥‥てなわけで引越完了の僕という名のspinnによって、先週からはここ大倉山がロックシティでありwe built this city on ロケンロール。 されどロケンロール。シャシャシャシャイなリズムにあわせてこんにちは、そして前回(3月6日)の更新はどうだった?

■まあ、面白かったかどうかは聴いてくれるファンのみんなが感じたままでいいからともかくとして、いや〜、とにかく画像を探す作業が本当に楽しかったんだよね。

■ご想像通り、使った3枚の画像はWWWで見つけたもの。おなじみのgoogleで、あらかじめイメージした画像が出そうな単語で検索をかけ、行き先のリンクをたどってみたり検索語を変えたりしながらぴったりな画像を探していった。もちろん文章と違って画像は直接サーチできないわけで、そう簡単にオモシロ画像にたどり着けるはずもなく、気がついたら1時間半くらいぶっ通しで狩りに出ていました。

■この遊びの楽しいとこって、たぶん最初の空想部分でのにんまり具合(いいこと思いついた〜)と、イメージした画像が出てきそうな単語を推理してサーチ、っていう2つのパートにまず分けられると思う。とくに後者の推理部分では、自分が欲しい画像をどう言葉に分解するか?でイメージの強さが試される、そんないいバランスで左右の脳を使う感じが気持ちいいと思ったよ。

■で、さらにもう1つ面白かったのが「意外なOK画像に出会う」ってことなんだよね。実際、使った3枚の画像は最初に僕が考えてたイメージと全然違う内容なんだ。なんだけど、大量の候補画像をみていると「これもOKだな」って思える画像に出会っちゃう。そして、「自分が考えてたイメージ」と「そのイメージで伝えたかった面白さ」を比較することになるんだ。つーか、自分のイメージ以外に正解があることに驚かされちゃう。こんなOKあったんだ、みたいなね。

■ある面白さを伝えたくて、僕やみんなや人類はイメージっていう弾丸を考える。だけど、その弾丸を研ぎすますことばかり考えてると、知らないうちに視野が狭くなっちゃったりするよね。ほんとは、自分が考えたイメージなんて弾丸候補の1つでしかなかったりするのに。

■そして、これこそがチームで何かを作るときの面白さなんじゃないかなって思ったよ。最初に面白さを考えるとこは個人作業かもしれないけど、その面白さを伝えるイメージを考えるところは、広くみんなで考えると驚けるいい結果がでそうかなって思ったが、どうか。

■そんな、イメージした画像を探すっていう「リソース・ハンティング」(←俺語)はとてもいいのでやってみて吉。出来る限りくだらない内容を考えて、必至に探すとかなり素敵だ。

■さて、最近やけに長めの更新もこれで終わり。遅まきながら*ridersにも登録よろしくねとかおきまりのセリフ残し、その男は旅立つのだ。それじゃ、またね。


03.16.2001 (Fri):『レスト・イン・ピース』

■『こんにちはspinnおじいちゃん、なに聴いてるの?』 おまえ、ピチカート・ファイブっていうバンド知ってるか? 『ピチカート・ファイブ‥‥‥中世の人物ですか?』 そういうネタはいいから、まあ座れ。

■ピチカート・ファイブっていうのはだな、2001年の3月末に解散したバンドだ。85年にデビューしたあとメンバーチェンジを繰り返し、ボーカルに野宮真貴を迎えてコロムビアに移籍した91年あたりから、彼ら独特のネタ満載で作りこまれた音楽を大量にリリースしていった。そしてGroovisionsとかさ、サバービアとかさ、あのあたりを一括するグルービィでキャッチーな(涙)ひとつの文化圏を築き上げたんだ。それまで、音楽をファッションとしてあそこまで自在に扱ったバンドはいなかったし、ついでに多感だった当時の僕の心に爪痕を残したのさ。

■好き嫌いや異論はあるだろうけど、彼ら(というより小西康晴)の成し遂げたリザルトって、1)信藤三雄との共同作業によるアイデアいっぱいの凝ったCDパッケージ/スリーブデザイン、そして2)過去の音楽をパクってなお格好いいとか言われちゃうサウンドプロダクション‥‥‥の2つが挙げられると思うんだ。アイドルとかバンドブームとか80年代歌謡曲が暮れていった場所を起点にして、音楽と(それ以上に)音楽を囲むファッションや文化の部分を凄い勢いで刷新していった感じがして、当時は本当に驚かされたし・重ね重ね格好よかったんだよね。

■これは僕がすごく好きな話なんだけど、イギリスのパッケージデザイナーにマイケル・ピータースって人がいて、彼の言葉で「僕の生涯の野心は、冷凍の魚フライのパッケージを今より10%良くすることだ」ってのがあるらしいんだ。どういう意味かっていうと、冷凍の魚フライのパッケってとにかく平凡でつまんなくてデザイン的には最低らしいんだけど、その最低なパッケのデザインを、自分が様々な製品のパッケージをデザインしていくその影響力で、*間接的に*レベルアップさせられたら最高だっていうんだよね。

■ピチカート・ファイブがやったことって、正にそういう「間接的な全体レベルアップ」だった気がするんだ。彼らのリリースによって、多分日本のポップスは(そしてそのパッケージのデザインは)全体として確実にレベルアップしたんじゃないかなと。それはとても凄いことだし、そういう仕事を僕もしていきたいぜとか誓い新たに思っちゃったりするんだよね〜。

■さて、いい加減冷静になって更新話でも。*solutionsの便利内容こと*utilitiesにおいた、渋谷レコードショップガイドをひさびさに更新。こちらもムテキレコーズ閉店という残念なお知らせを反映させた形。また、会社の先輩たちのプライベート音楽レーベル、nanosoundsへのリンクを*linkageに追加しました。

■『ムニャムニャ』‥‥‥なんだ、おじいちゃんが熱く語ってるのに寝ちゃってるのか。それじゃ、今日はこのへんで。またね。


03.30.2001 (Fri):『T.V.A.G.』

■さて、2週間ぶりのspinnであり、お久しぶりとこんにちは。昨日は煮詰まった頭と体調不良が会社オヤスミとして実を結んじまった悲しみで、コンタクトレンズの替えを買いに眼科に行ったあとは部屋でTVを観てました。

■なんて書くと相当過激な平凡さを感じるけど、日頃の僕はお昼くらいに出社して→19時〜21時なんて一番仕事してるから、平日この時間のTVを観てるのってほとんどあり得ないことなんだよね。でも、よく考えたら家庭用ゲームなんてポップ全開たるべき製品を作るのが仕事なのに、何よりポピュラーでみんなの日常であるゴールデンタイムのTVを観てないってどういうこと? 知らない間に、象牙の塔のヒッキーになってるの? 世間ズレしちゃってる? やばいよ。折角のこのチャンス、TV観なきゃ!

■で、実際「ものまね王座決定戦」とか「アンビリーバボー心霊写真スペシャル」とか「ココリコ田中がだまされるドッキリ」とか観てみました。‥‥‥うーん、やっぱり、TVバラエティの内容はほんとに素晴らしいよ〜なんて、いくらなんでも言えないんだ。言えなんだけど、すごく広くて食べやすくて軽い刺激を用意するための、手間暇のかけ方には本当に驚かされっぱなしだった。

■ものまね王座を決定するために、セット組んだり審査員呼んだり、何十人もの人がものまねの練習をしたり、考えただけでも相当の人数・相当のパワーが注がれてる。心霊写真の撮影場所を霊能力者が訪ねるとき、写真を送ったTさん(仮名)に連絡してスケジュール組んでチケットとって取材にいって・単純にインタビューだけじゃなくて「青森県A市」なんて場所を説明する映像も撮って・帰ってきて映像編集して交通費の精算して。それも取材は1組じゃないし、写真はたくさんあるし、それをまとめて時間ぴったりのソフトウェアに仕上げる。大変だ。僕は素人なので想像するしかないけど、段取りをちょっと考えただけで簡単に気が遠くなります。

■しかもそれが、たった2時間の楽しさだけのためなんだよね。バラエティなんてビデオとかDVDになったりしないじゃない? 内容が薄くて軽いことなんて、スタッフ全員が分かってるわけじゃない? でもそれは日本のみんなの楽しみで、むしろその楽しみを作るために、スタッフと出演者がプロに徹して強烈なスピードで番組を仕上げてる。この意識の強さが、今の僕にあるかなーとかなんか反省しちゃうっつーか勇気づけられる気がしたよ。スゲーナTV。

■さて、そんな強まる僕のモニターの中でおこなわれた今回の更新は、来訪者リストの*ridersの#58にbdxさんがエントリー。ネット上のテクノレーベル・Neuro Net Recordingsでお世話になって以来のおつき合いなのに、出会いも共に過ごした時間も、すべてネットだけ・テキストだけなんですよね。今年の僕は音楽製作も再開予定なので、これからもよろしくおねがいします。

■もう午前5時を過ぎたけど、今日は幕張のゲームショウを観にいくから、やや早起きめで仕事に復帰します。それでは、またね。


04.04.2001 (Wed):『ライブ中継』

■今回は早めのこんにちは。僕はspinn。昨日は早く会社をあがったので、まだ開いてたHMV横浜ルミネで久々にCDを1枚買ってきました。

■そのCDってのが、ニュージーランド出身で29歳ジャズプレイヤー(同い年か!)、ネイサン・ヘインズの『Sound Travels』ってアルバム。リンク先がフランス語なんだけど、決してスカすつもりはなくて・いい写真が載ってるページがそこだけだったんだ。ごめん。あえてジャンルで言うと、ダンスミュージック、それもジャズとかハウスとかブレークビーツ物とか?なんかそんな言い方をする部類に入るはず。

■内容はというと、サンプラー上でプログラムされた生音と生楽器の演奏で構成した、フューチャリスティックで有機的なジャズつーか。プロデューサーでありネイサンとの共同制作者であるフィル・アッシャー(restless soul)は、西ロンドンで格好いい曲やリミックスを大量リリースしているDJなので、ボーカルやサックスやローズピアノ(エレピ)の滑らかな音やハーモニーの後ろで、寸分の狂いもなく構成されたリズムが鳴っている。音の印象は柔らかいんだけど、空間を支えるフレームの構造はあくまでソリッド。腰にぐっとくるセクシー部分と思考にぐっとくるシャープな魅力が同時に味わえる、一粒で2度おいしい・それもめちゃくちゃおいしい音楽になってるんだ‥‥‥ってこの文章を書きながらさっきから聴いてるけど、いいわやっぱ。格好よすぎ。

■ところで一般的なポップスと比べると、ダンスミュージックの世界って日々ものすごい勢い数の曲がレコードしてプレスされ・流行とともに消えていく、なんつーか大量消費の極限みたいなところがあると思うんだ。そのせいで、実際に自分の好みの曲を追いかける・捕まえるためには突っ込んだ知識が要求されちゃったりして、なんだかマニアックで小難しくて偉ぶってるような、閉鎖的な印象があるかもなって思う。

■でも、僕がこのダイナミックに動いていくレコード世界をわずかばかり覗いてきて分かったことは、そういった大量のレコードが量産される世界だからこそ、ミュージシャン達はすごい勢いで自分のアイデアを試し、お互いを切磋琢磨しあうことができてるんじゃないかなってことなんだ。そして、切磋琢磨しあう環境があってこそ、今回紹介しているネイサン・ヘインズみたいな奇跡的に強い音楽が生まれてくるんじゃないかなって。

■レコードの世界を追いかけるのって、なんだかスポーツのライブ中継をみているような、それもシーズンまるごと追いかけて観てるような感じがするんだよね。そこで展開される一瞬のドラマや輝きに感動するために、僕は(職業DJでもないのに)レコードを買い続けてるんじゃないかと。他のみんなはどうなんだろう?

■さて、今回はここ以外の更新は特にないです。ニモスピの来訪者リスト・*ridersへの登録よろしくねってお願いしつつ、今日はもうこのへんで。3/31にピチカート・ファイブの解散イベントに行ったときの話は、また後日にでも書きたいな。それでは、またね。


04.12.2001 (Thu):『ヴォイス・プリント』

■もう、寒くないよね。じゃ、春だよね。そんな「絶対安全になってからしか告白しない派」のspinnです。こんにちは。ずるいかな。臆病なだけなのかな。

■それはいいとして春=新学期シーズンですから、僕様のやや遅い朝の目覚めは隣の女子高から聴こえる発声練習で訪れます。つーか休み時間の騒ぐ声だ。こっちも窓開けてるから、寒い時期の3倍で聴こえてくるぜ。男子高時代に失った青春取り戻すさ〜とか相当喜べてたはずなのに、なんつーの美人は3日で飽きるというか、もう不満。もう沢山。もう、終わーりーだねー(オフコース・1979年)。

■そして今は夜。仕事が終わって部屋に戻ると、窓の外からギリギリした虫の音が攻撃的に耳を差します。オウテカとか好きなんじゃないかな、あの虫。

■‥‥‥とかって環境音のディテールひとつひとつに驚けるのは、やっぱり引越したから、なんだろうね。以前住んでた元住吉の社宅には社宅の・この部屋にはこの部屋の環境音がある。人間の声には、指紋みたいに個人を特定できる「声紋」ってのがあるわけだけど、それって個人だけの話じゃなくて、世界中の場所にはそれぞれに・それぞれの声紋があるんじゃないかなって思うんだ。環境音のポートフォリオは場所それぞれで、ひとつとして同じものがない。

■今みんながこのページを見てくれているように、WWWでいろんなページを見ていると、まあだいたい95%くらい?は無音なわけだよね。冷たいモニターの向こう側。でも、そのページを作ったヤツがいた場所には、きっとそれぞれの環境音があったんだよね。バイパス沿いに住む彼のページの向こうでは・常にクルマの音が聴こえているんだろうし、昼の厚木基地の横で作られたページには・双発ジェットの爆音が響いているかもしれない。海外のページの環境音を想像したり、時差とか考えちゃったり、掲示板の書き込みそれぞれの後ろに別々な環境音があることとか考えると‥‥‥うーん、それだけで気持ちよく遠い目になれちゃうんだよねー。

■世界がひとつになるのもすばらしい、けど、やっぱ世界がバラバラなのもたまんなくおもれーよなと思うときがこんな瞬間なのです。みんなの環境音はどんなですか? そんな投げだし方で今日の更新は終わりにしましょう。それでは、またね。


04.23.2001 (Mon):『オン・ステージ』

■こんにちは、昨日という名の日曜はなんだかゆっくりしてたspinnです。6月末の誕生日を前に20代の週末も残りわずか‥‥‥って字面を見ると切迫感たっぷりなんだけど、実はもうそのくらいじゃ全然焦らない・動じないんだよね。自分でもちょっと驚くけど、なんての、年齢重ねて得たプチ解脱つーか。そんな訳でやけに堂々と昼過ぎに起きて、ダラっとゼルダ64(1998年・任天堂)をやったり日用品の買い物にいったりしつつ、夕方も日が傾きかけてからちょっとだけお出かけしてきました。

■いってきたのは家から歩いて10分・東横線大倉山駅の近くにある大倉山記念館。以前、世界機械のNLKさん(誕生日おめでとう!)に教えてもらってた場所で、映画「1999年の夏休み」でも使われたという瀟洒な建物に、ズームイン(死語)。

■「山」ってだけあって急な坂道を5分ほど登っていくと、木々の生い茂る大倉山公園と、その中心に立つ昭和7年(1932年)生まれの白い建物がありました。いわゆる洋風建築に日本風の屋根がついてるタイプ。雑然とした駅前の商店街が嘘のような、うっとりするような静かな空間が広がっています。あ、好きだわここ。うん、だーいすき。

■期待通りの素敵雰囲気な中にはいると、(市の施設らしく)近所の音楽教室が、建物の中心にあるホールで発表会をはじめようとしていました。100席弱の小さなホールの奥には、ステージとピアノが見え、辺りにはおめかしした小学生〜中学生くらいの女の子と男の子。そして同じくおめかしで、スーツとかワンピースとか着ちゃってる両親。そわそわした、発表会前の空気ビンビン物語。いいね!

■僕も小学生くらいのときにピアノ習ってたんだけど、日頃は練習も鬱陶しいし・なんかピアノって女の子っぽくて恥ずかしいしであんまり好きじゃなかった。そう、好きじゃなかったんだけど、こういう発表会だけは大好きだったんだよね〜。普通は入れないだろうバックステージで・緞帳を巻き上げるレバーの横とかに立って・どきどきしながら自分の番を待つのはどきどきするのでどきどきで良かった。それにまわりの大人が基本的に誉めてくれるから、わりと気分いいしね‥‥‥ってフリッパーズ・ギターの「Cloudy」みたいな。ていうかまんま。

■そして僕は、なにより「発表会」っていう空間自体が好きでたまらなかったんだなーってことを思い出したよ。フォーマルで素敵げなみんなが集まって、いつもと違うちょい緊張気味の特別な時間を過ごす。トランシーで開放的なゆるいイベントもいいけど、この手のやや緊張含みのイベント(スポーツの試合とか、結婚式の2次会とかな)ってのは悪くないし、僕もこういうイベントを手を変え品を変え用意していきてーなーと思った次第だった。たぶんそこでは、いかに上質な緊張を用意するかと、まとわりつきがちな義務感をいかに消すかがポイントになるんじゃないかな。

■やがて大倉山記念館は18時半の開演時間になり、ホールの扉が閉ざされました。他の会議室から(市の施設らしく)大学生のマニアさんがカードゲームの発声プレイで大盛り上がりする声も聴こえるが気にすんな。扉の向こうがわには、心地よい緊張と、わくわくする感じ。特別な夜がはじまります。成功を祈りたい。

■そんでもって演奏がはじまると、これがまた別の意味で楽しくてたまらねえ事態だったので、その件につきましては近日の更新でお伝えしていきます。とりあえず今回はこれで。それじゃ、またね。


04.28.2001 (Sat):『オフ・マイク』

■こんにちは。お約束の「近日」の到着そして僕の名前がspinnです。さっそく前回の続きにいく前に、突然だけど前回感想のメールくれたいちこさん、いつもありがとね。この場を借りてTHX。

■さて、前回は瀟洒な大倉山記念館でピアノの発表会やってて、その特別っぽい状況が非常に素敵だったなとかって内容でした。おめかしした男の子と女の子、そして両親。そんなドキドキそわそわ時間を僕も通りすがりに共有してると、18時半の開演時間になり、ホールの扉がとじられたところから。

■扉が閉まった。ホールの前は吹き抜けになってるんだけど、僕はその壁際に置かれた長椅子に座って、吹き抜けを満たす静けさとドキドキの余韻を楽しんでいた。するとだなー、そこに更に2発目のパンチで、中から子供の弾くピアノの音がこもった感じの音で聴こえてきたんだよね。

■ピアノ初心者のスタンダード発表会曲・ベートーベンのトルコ行進曲(1810年)。しかもオリジナルにある装飾音a.k.a.「トゥラッタッタッタン」の「トゥ」を省略して演奏してるとこみると、弾いてるのはかなり初級の子なんだろうな。たどたどしい演奏にはグルーブも何もないわけだけど、決して大きくはないホールの中に広がるその音は、きっと同じホール内で空間を共有している両親の心に、生々しくスリリングなヴァイブを届けているに違いないぜ。がんばれ、桜子ちゃん(←こっそり貰ったパンフレットに名前が書いてあった)。

■そして演奏された桜子ちゃんのピアノの音は、ホールの中で複雑な反響をまといながら・幾重にも波形が折り重なりつつ扉の外まで聴こえてくる。倍音がいい感じに増えてるからかな、すごく豊かな、厚みをもった音として聴こえてくるぜ。

■しかもその音は、階段の吹き抜けの中でさらに拡散しながら反響している。するとですよ、子供の発表会って状況・そしてピアノっていう音が吹き抜けの反響結びついて、なんつーかすごく「学校」みたいな空間をひとつ立ち上げ、僕を包み込みやがるんだよね〜。そうなんだ、コンクリートという素材・吹き抜けっていう形状が学校と共通する上に、発表会っていう状況とピアノ音がそろい踏みとくれば、僕の高性能過ぎるノスタルジー・エンジンが全開でうなっちゃうよ止められないよ。長椅子に座った僕の気持ちには、あの懐かしい「学校」の気分が忍び込み、僕は激しく和まされる羽目になったのでした。

■音楽の気持ち良さって、それを構成する楽音(演奏される音符)にあることは間違いない。けれど、さらに広く「音」の気持ち良さを考えたとき、音の響きに空間を感じちゃうことにも重要な効き目と豊かさがあるんじゃないかなって思うんだ。響きこそが音楽にバックグラウンドを与える。その結果、同じひとつのピアノの音が、ホール内で同じ空間を共有する両親にスリルを、ホールの外では僕にノスタルをもたらすことができやがったんじゃないかなって。やるな、響き。

■そんな感じで素敵建物で素敵気持ちを満喫したあと、僕は記念館を出て、すっかり暗くなった公園の中を歩いたのだった。そして少しいくと、高台の上から横浜の街を見渡すポイントに出た。広がるすべての窓には、きっと当たり前の夕食時の暮らしがあるんだよねえ‥‥‥ってあーもう! パンチ2発食らってメロメロ状態で、こんなネオンとかディテールが消され・抽象化された「普通の街」なんてみせられたら、おじさん、泣いちゃうよ!

■気持ちを攻める装置に満ちた恐ろしい場所・大倉山記念館。GW中はほぼ休館らしいので、明けた後とかみんなも是非いってみてください。東急東横線・大倉山駅徒歩5分。昼もいいけど、夕方→夜コンボ推奨です。それじゃ、またね。


05.09.2001 (Wed):『リリクス・トゥ・ゴー』

■おはようございます。GW後の会社同期飲み会でオモロく有意義な話で楽しめた一方、知らず(飲めないくせに)レッドゾーンを越え、胃腸エンジンブローのspinnです。うう。火曜日は強烈なスローダウン走行。移動にマイナス修正。HPゲージは紫色。30時間食べてなくても平気なので、さぞやダイエットにいい感じ。

■そんなサラリマンらしい・だるい体調が面白いので、非常にさわやかで大好きなm-froの大ヒット曲・『come again』を聴いてコントラストをとってみました。思った通り、そして思った以上に全然雰囲気に乗れなくて面白い。I am not what I was。プチ多重人格気分を満喫です。

■で、だ。その『come again』の歌詞の中に、「着信のチェックしてみても you won't apper」ってフレーズがあるんだ。「着信」。これってさ、あえて指摘するまでもなく、携帯電話に関連した・いわばアイティー用語だよね。ケイタイが5000万台だか普及して・みんなが持ってる持ち物になったってことが、チャートにはいる普通のポップスの歌詞になったことで完全に証明された気がしたよ。

■思い起こせば90年代の前半くらいに、平沢進/P-MODELが暗めな雰囲気で手をつけたり、戸田誠司が『hello world』(1995)でネット関係の言葉を音楽にしたとき、アイティー用語はやっぱり先端なイメージを持っていたと思うんだ。平沢進はそれをロマンチックかつゴシックにとがらせ、戸田誠司は明るくキッチュな冗談に仕立てたと。

■それから数年たって、あの確信犯的下世話さ(←誉めてます)で大ヒット中のモーニング娘。の曲に「サイト」とか「メール」とかって単語が入ってきたあたりで、アイティー用語のポップ化が始まったんじゃないかな。とかってなんか小難しい言い方になったな。なんつーの、「アリになった」感じがしたんだよね。

■そして『come again』あたりで、アイティー用語の完全ポップ化が達成されたと。僕が知ってる範囲だけで書いてるからかなり乱暴だけど、大まかな時期はそんなズレてない気がするが、どうか。

■そして気になるのが、「ビデオ」とか「テレビ」とか、もっと言うと「映画」とか「電話」が最初に音楽の歌詞になったのって、いつだったのかな〜っていうことなんだよね。電話なんて今じゃ当たり前すぎてアクビの出るような小道具だけど、それが先鋭的なイメージを持ってた時期と、その先鋭さが失われた・ポップになったって瞬間が必ずあったんじゃないかなって。「クルマ」とかさ。

■さらに言うと、それが「先鋭的」である限り・イメージをエッジ立てて扱ってる限り、ポップにはならないんじゃないの?って気がするんだ。会社で先輩が言ってた「売れてるものってどっかダサいよね」って言葉が思い出されます‥‥‥っていうと、売れセン狙いの凡庸路線推奨派みたいだけどそうじゃなくて。先鋭的だと思われていたイメージを最高のタイミングでポップ化することにこそ、なんての、大量生産プロダクト作りの妙味がある気がするんだよね。

■例えば最近のTVゲームの世界だと、「新鮮さ」とか「新規性」の無さが問題になったりします。確かに、既視感全開の続きゲームがつまんなく見えちゃうのはわかる。でも、だからって、ついていけない程エッジの立った「新規性」をぶつけてみても、イメージに対して訓練された先鋭な世界の人だけにしか伝わらない可能性があるんじゃないかなって思うんだ。そして、伝わらない先鋭イメージには、ポップなものとしては結局意味がない気がするんだよね。

■僕も現代美術とか先鋭的なものとか好きだしそういう世界を応援してるんだけど、ゲームは現代美術じゃないよな。そんなことを考える胃炎まじりの水曜日の朝でした。ちょっと寝て会社行こうっと。それじゃ、またね。


05.21.2001 (Mon):『スカイ・スクレイパー、アイ・ラブ・ユー』

■こんにちは。またやや間があいてのspinnです。最近は来訪者リストこと*ridersのエントリーも何だかごぶさた(残念〜)だったり、正直僕のネット環境的にはイベントが少ない毎日だったけど、この前ひさびさに1件面白いのがありました。その話で今日は始めましょう。

■イベントっていっても、音楽絡みの話でWWWで知り合った人とメールやりとりしてみたら・6年くらい前までお互いが激しく近所に住んでたことがわかったとか、まあ内容自体はよくある話です。けど、おかげで忘れかけてた素敵場所を思い出すことができたんだよね。その場所とは千葉県習志野市・谷津。僕が大学時代に住んでいた、水鳥がたくさん住んでる干潟のあるところ。

■思い出す、僕好きのする人工景観。そこは2本の高速道路と広い干潟に囲まれた・空がやたらに開けた素敵な場所でした。そして、干潟のほとりに立ち並ぶ谷津パークタウンっていう巨大な団地が最高で、休日の夕方なんてよく散歩にいったものです。

■特によかったのが南西向きのこの団地に夕日が当たるときで、干潟の反対側から眺める景色は本当にキレイだった。直線的でカッチリした白い建物たちが、柔らかい曲線でできた干潟の水面にうつり込む。しかもそのとき、僕が立ってる「干潟の反対側」は高速道路の陰で暗くなってるもんだから、ちょっと泣けちゃうくらい遠く・光輝いてみえるんだ。機会があれば京葉線・南船橋駅で降りてぜひ見てほしい、素晴らしい団地景観アンセム。いいんだよー。

■だいたい僕は、この団地ってやつが一般に好きでしょーがない。たくさんの窓と窓と窓と窓が生み出すどこまでもソリッドなリズム。そのリズムには、昼白色/昼光色/電球色っていう蛍光灯の色の違い・カーテンの色の違い・そして明かりの消えた暗い部屋によって、もう一つのリズムが重ねあわされる。複雑で有機的な、団地のリズム。団地グルーブ。

■そして、これは非常に大事なことなんだけど、団地には表と裏があるんだよね。明かりの色が変わるベランダ側の反対には、入り口ドアが整然と並び・同じ色の蛍光灯が並ぶよりミニマルな「廊下側」がある。ベランダ側がA面なら、廊下側はB面のミックス違い/ダブバージョンに相当するぜ。蛍光灯とドアが微妙に違うテンポで並ぶ(ドア1枚に蛍光灯1個とかって対応じゃないからね)廊下側のリズムには、ジョン・ケージのソレに近い抽象的な美しさがあります。

■とかってシンプルな廊下側にも、唯一無二のスペクタクルがある。それは昼の間に消えてた蛍光灯が、だいたい夕方5時くらいに一気に点灯する瞬間。カラフルでキャッチーなベランダ側にはない、廊下側ならではのワンショットで珠玉の高揚感を喚起します。

■もちろん、窓のリズムそれ自体はオフィス街のビルにもあって、実際かっこいい窓グルーブは新宿丸の内にもあるわけだけど、団地にしかない要素がひとつあって、それが家々から流れてくる・魅惑の「夕食の匂い」なんだよね。中でもカレーが格別だ。団地のタイトなリズムの上で漂う、グラマラスなボーカルのように‥‥‥なんて、言い過ぎのようで言い足りないくらいの勢いですよ奥さん!

■こうして書き並べてみて思ったけど、これってハイテクでジャズっぽいハウス(←乱暴)みたいな、有機的にプログラムされた音楽を僕が好きな理由と全く同じなんだよね。70年代はテクノだけが、現在ではヒップホップやハウスをはじめ様々な音楽に見られる、ループ基本のフレーム構造。その上に重ねられた、気持ちに響く豊かな生音たち。

■となれば、団地が好きならプログラムされた音楽が好きになれんじゃねーのと、そしてその逆も言えるんじゃねーのと、やや大胆かつ短絡的に考えていきたい。客観的にいって両者マニアックなダンスミュージック&団地のキレイさだけど、もしもどっちかが好きなら、その逆もきっと真なりだと思うんだけどどうか。 ‥‥‥そんなところで、またもや長かった今回も終わり。それでは、またね。