眼鏡ノ端ニ踊ル影・第二話。
「そんなオマエはノーサンキュー。」
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・地名などは一切関係ありません。

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今日も今日とてGストアー。
客も来ないうちから頭を抱える積山と館川。特に積山のダメージが尋常でない。
頭痛の種はこの男である。

「しぇきやましゃん!!ちょっと来るでしゅ!!」

リチャード・王(ワン)。Y支店の「リトゥン・アポロジー」である。
要は「始末書書き」ということなのであるが。



ここで補足をしなければなるまい。
一応「客は屠ってナンボ」のGストアーでも、社内の決まりというものはある。
「迷惑かけられたら屠ってヨシ!」
要は「しくじれば痛い目見るぞコンチクショウ」ということである。

これを曲解して店舗人員をゼロにした挙句、クビになった店長も多いらしい。一応偉い店長とはいえ、屠る相手は選ばなければいけないのだ。自分の欲望のために仲間(一応)を屠れば後で困るのは自分である。

簡単に役職の説明もしておこう。
因みに積山の役職は「オプティカル・マーダー(視覚的殺人者)」。入った人間にまず与えられる役職であり、要はヒラである。これからマスターした事柄に応じて、与えられる名が変わるのだ。

館川は八つ当たりでよく物を投げていた為か、投擲に長じたため、今の「店長」の肩書き以外に「スルー・マスター(投擲の達人)」の名を与えられている。
(先日客の頭にヤスリを刺したのも投擲によるものである。)

リチャードの「リトゥン・アポロジー」は「屠るのは勘弁してやるから始末書かいてろ」と言う、遠まわしな「肩たたき」的役職なのであるが、リチャードは英語が分からないのか、そこをスルーしている。会社も一度入れた手前、仲間を殺傷でもしない限り簡単にクビには出来ないのだ。


「しぇきやましゃんッ!!きいてるでしゅか!!」

物議をかもす半島の南からやってきた為か、「さ行」がちゃんと発音できていない発音でがなりたてるリチャード。

「積山君・・・・後は頼んだ。」と言い残し、奥に引きこもる館川店長。「スルーマスター」なだけに物事を投げるのも早い。

「・・・・。(こんな所までスルーマスターでも困るんだよな・・・。)」

積山は軽く嘆息した。


〜2〜

「遅いでしゅ!!」
しっかりポマードで7:3に分けた頭を執拗になでつけ、吼えるリチャード。

「はいはい、すみませんリチャードさん。」
極力、相手を不快にさせないよう普通に語りかける積山。一応上司であるリチャードに逆らうのは得策でない。

謝ったことに気を良くしたのか軽く表情を緩ませつつ、積山に書類を渡すリチャード。
「これを書いて私のところへ持ってくるでしゅ!!」

「あーいー。」
内容も確認せず、書き始める積山。内容は分かっている。始末書だ。
上司に分かる程度の程々の書体でツラツラ流し書く。
気をつけないと読めなくなる位、積山は字が汚いのだ。

お決まりの「反省しています。」と言う締めくくりと、自分のサインを適当に書き、リチャードの所へ持っていく。

「リチャードさん、終わりましたよー。」

「ん!ごくろうでしゅ!!」
受け取って満足げなリチャード。


そう。積山の頭痛はココから強くなるのだ。勿論店長も。

〜3〜

受け取った書類を流し読み、「よし!オッケーでしゅ!!」とリチャード。
普通は店長に流し、便で本社に送るのが通例である。

しかし、リチャードはそうしない。積山のサインを修正テープで消し、こう書き綴るのだ。
「りちゃあど・わん」と。

そう、積山が書いたのはリチャードの始末書なのだ。

積山も一度、「自分で書いたらどうですか?」と軽く突っ込んで見たことがある。しかしリチャードはあくまで「これはしぇきやましゃんの始末書でしゅ!!」と言い張って聞かない。積山の目の前でサインを消して書き直しているにもかかわらず、である。

「完成でしゅ!!てんちょー!!てんちょー!!!」
急に積山に対する偉そうな態度は何処へやら、小動物のように店長の下へ駆け寄るリチャード。典型的な教頭キャラである。

「ナニ?リチャード。」
言葉にのみ反応する館川店長。顔はリチャードを見ていない。

「始末書書いて来たでしゅ!!」
自慢げに書類を提示するリチャード。例えるならフリスビーを持ってきた犬といったところか。

「・・・・・・・・・・。」
一応目を通すのが店長の優しさである。

言わなくても分かるであろうが、店長はこれがリチャードの書いたものではないことを知っている。これからどうするかも。

リチャードはというと、もう頭をなでてもらう準備万全である。

「ゥリッチャードッ!!」
顔を見ないまま大シャウトし、そのままリチャードの口に紙を挟む館川店長。

「・・・・・・・・??」

これでもかと言うほど不思議な顔をして咥えさせられた紙を見るリチャード。
そこにはこう記述されている。
「始末書−記述内容:始末書を他人に書かせた件」と。

そして一言、「おぅ、始末書でしゅ。」

因みに先ほど積山が書いていた物も内容は一緒である。
更に言うならば、この永久機関は3日ほど続いている

そう、リチャードはお馬鹿なのだ。
難易度が高いのだ。


3秒後に積山を呼ぶリチャードの声と
館川が丸めて持っていた新聞が空を切る音はほぼ同時であった・・・。

〜続く〜

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