トウキョウソナタ
監督 黒沢清
出演 香川照之 小泉今日子 井之脇海 小柳友 井川遥 津田寛治 児島一哉 役所広司
脚本 マックス・マニックス 黒沢清 田中幸子
撮影 芦澤明子
編集 高橋幸一
音楽 橋本和昌
2008年作品 119分
カンヌ国際映画祭…ある視点部門・審査員賞
評価☆☆☆★
小泉今日子
さんの映画で、家庭の崩壊劇というと「空中庭園」を、ちょっと思い出すが。
キョンキョンも、子持ちの主婦の役が普通のことになったんだねえ…。
ひっぱって…だれか私を引っ張って。
という彼女のセリフに象徴される、孤独感、空虚感というのは、もそも人が根底にもっているものではないだろうか。
家庭の中でも寂しさを感じると、なお増幅されてしまうような。
彼女の家では、夫が突然のリストラに遭う。
安い人件費の中国に総務部の業務を移す、というのは、今シーズンの、あるテレビドラマと同じじゃん!と、ちょっと、びっくり。もちろん真似したわけじゃないと思うけど、海外へのアウトソーシング(業務委託)が流行りになったら困る気もするぞ。
40代になってからの失業は、他人事ではない。こんなことになったら、どうしようか。
ただ、仕事を辞めたことを家族に言えないというのは、理解しづらかった。
そんなにプライドがある? はずかしいことなのか?
そういうことを言えないような家庭なら、「解散」したほうがいいと思う、私は。
小泉さんについては「グーグーだって猫である」のときに、ファンゆえに彼女の演技がうまいのかどうか客観的に分からない、と書いたが、本作で思った。
女優として、イケてます!
フツーの主婦の役をフツーに(かなり非日常的な冒険もあるが)できるんだから。
電車が通りすぎる音がよく聞こえる、線路沿いの家。うるさくても、価格の安めな物件で、この家族は我慢したのかな、などと考えてしまう。
食卓で父親がビールを飲んでから食事に入る。他の家族は父親がビールを飲む間は食べず、父親が食べ始めるのを待ってから食べ始める。これは何なんだ。
だいたい、この父親はヘンなところで威厳を持ちたがる。
この家庭のバラバラ感が、父親のせいに思えてしまうのは、私が小泉ファンのせいだけではあるまい。
一方で、この程度の家庭崩壊(崩壊ともいえないのでは?)は、それほど珍しいことではないかも、と考える自分がいる。
それが今の日本の家庭にありがちな姿としたら、すごく寂しい。
閉塞感とか無力感が、変えがたい社会の空気なのは、つらいことだ。
役所広司の登場から唐突に話が急展開するが、これは小泉さん扮する主婦の深層心理を引っ張り出す手段でしょう。
ラストのドビュッシーの「月の光」。希望の光が、かすかに、静かに、流れる。
いい曲だよね、ほんとに。
それにしても、あの階段落ちは、まるでホラー(以上)だった。
〔2008年10月11日(土) 恵比寿ガーデンシネマ2〕
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